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長い夜の始まり

 俺が――――虚蔵 縁が神野 刃金を追い続ける理由は所詮 『私怨』 である。


 復讐は悪の為すこと――――それは万人が知る、万人共通のルール。


 俺はそれを犯した、今も犯している。


 両親を早くに亡くした俺には家族と呼べる存在はたった一人しかいなかった。

 

 風邪をひいた俺を気遣って学校を休んでまで一日中看病してくれた妹。


 毎年クリスマスになると、妹は通り過ぎる明るい雰囲気の家族をうらやましそうに見る。その後、普段よりも明るく振舞って気を紛らわせようとした。   

 

 そんな彼女を奪った神野を俺は許せなかった。万人が万人、『Yes』 と答える質問に俺は 『No』 と答えた。


 俺は復讐の鬼になった…………なったつもりだった、彼女に出会うまでは。


 レア――――復讐するべき相手が探していた異世界からの来訪者。彼女のような存在を集めている神野から逃げ出してきた少女。


 …………彼女は妹によく似ていた。良い意味ではなく、悪い意味でだ。


 妹と彼女が似すぎていたから、まるで妹が戻ってきたように感じてしまったからだ。


俺の中で荒波たてて渦巻いていた復讐心は穏やかなものになりつつあった。


 彼女は俺と共にいることにしたらしい。俺はそれを受け入れた。


 彼女を失えば、もう一度妹を失うような気がしたから。


 …………俺にはレアを守る役目は無かったが、守りたい理由はあった。不純に満ちた感情と理由を自覚して罪悪感が重石になりながらも、俺はかつての自分を取り戻しつつあった。


 俺の周りに満ちていた狂気は日を追うごとに薄れていき、今では神野を追うこともやめていた。


 ―――――――――――――――――――――だからだろうか


 俺が妹を忘れていたから……失ったのか。


 『…………おい、動いたぞ』

 

 声がした。前に聞いたことのある声だ。


 そして、


 『…………ヤベエ、ドンナカオシテイイノカワカラナイ』


 『普通に「よっ」とかでいいんじゃないか」


 『ヨッ!』


 『私にしてどうする』


 かつて、俺の親友だった少年。本城 日上。


 「…………ひがみ……か」


 「ヨッ!」


 「…………ああ」


 表情を固めたまま片手を上げて機械的な挨拶をしているのはあくまで、かつての 『親友』 だ。かと言って今の 『親友』 があるわけではないが。この男を見て正々堂々とそう呼べるか……無理だろう。


 「――――ぐっ!」


 「おっ、おい!」


 ――――ここは……日上の部屋か。どうやらこいつの布団で寝かされていたらしい。


 「まだ身体を動かさないほうが良いぞ。背中がざっくり裂かれているんだからな」


 ――――イヴ。俺がかつて利用した女。やっぱり、あまり俺のことを快く思っているわけではなさそうだ。俺に向ける視線は敵意が見え隠れしている。


 だが今はこいつにかまっている時間が無い。


 「……はや…く、いかねえと」


 立ち上がろうとするが、傷口が開く。背中の包帯に血が滲んで気味の悪い悪寒が走った。


 時計を見ると俺がここに運ばれてからまだそんなに経っていないようだ。


 -―――今から追えば間に合う。


 「……縁」


 扉を開けて出て行こうとする俺の腕を掴み止めようとする日上。


 「何があった」


 「………………ッ!」


 口を閉じたまま、俺は放せといわんばかりにその手を払いのける。


 「この……クソヤロウ!」


 すると、今度は足を払いのけられた。受身を取ることも出来ずに無様に顔面から床に倒れる。


 「……日上、仮にもけが人だぞ」


 「わかってる、無視されたからムカついただけだ!」


 「ムカついただけって……言い訳にすらなってない」


 ――――相変わらず、口より手、手の後は足を使う奴だ。ていうか、こいつの相手を止める手順の中に口はあるのか。


 「お~い、けが人なんだから安静にしてろって」


 「………………うるさい」


 再び立ち上がろうとするが、足で頭を踏まれて抑えられた。


 「日上、お前の人間性にそろそろあきれ返りそうだ」


 日上はイヴの言葉に耳を傾けていない。そういう奴だ。

    

 「……おい縁、もう一度聞く。何があった?」


 俺を見下ろしながら話しかけてくる。場所が場所なら拷問にかけられているように見えなくも無い。


 「お前には関係ない」


 俺はその眼を睨み返す。


 「関係ない……それはお前が決めることじゃない。関係があるかどうかは事情を聞いてから俺が判断する」


 更に覚めた目でこちらを見下ろしてくる。


 ――――だめだ。こいつを関らせてはいけない。こいつに関らせる義理は無い。巻き込むな。



 

 …………だけど、もしかしたらこいつなら。

 

 そう思ったが最後、俺は自分だけであの男の下へ向かう恐怖に駆られた。


 悪寒が俺の思考を冷めさせ、眼を覚めさせた。


 ――――彼女を守ると決めたんだろう。

 

 なら、利用しろ。こいつを。


 


 「…………レアが……レアが連れて行かれた」

 

 俺は縋るような声で親友だった男に助けを求めた。

    

 

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