告白
「私達は……いわゆる、お前たち人間が進化した生物だ」
朝食を食べ終わった後、僕はイヴから必要なことを聞き出そうとしていた。必要なこと、そう、必要なことだ。ここから先に現れるであろう存在を知っておくべきだと感じ、教えを請うた。彼女は至極アッサリと話を始めてくれた。
「私達に生物的な名は無い。そもそも、私達は言語をそれほど必要としていない存在だった」
「言語が必要ない?」
「意識を共有していたからだ。私達は、言葉が無くてもお互いを知れた。『ホール』と呼ばれる意識集合の場があり、そこにアクセスすることでいつでも誰の情報でも引き出して見る事ができた」
「…………えと、つまり……ネットに意識を繋げたようなものか? 第三の何かを経由することで互いをリンクさせて情報の交換をしていたってことなのか」
「ネット……というものがわからないが、まぁそうだな。第三の意識に私達の精神は常に置かれていた。『ホール』と呼ばれる少女の意識の中に」
「少女ッ!?」
「私達の中でも特に発達した存在だった。彼女が『ホール』を形成するまでは私達の先祖も戦争というものをしていたらしいが――――」
それが止まったという。
その先も、彼女の、彼女のいた世界の文化はすさまじいものだった。いや、別段俺たちの世界よりも先んじているわけではなく。あくまで違う進化の仕方をした人類なのだ。俺たちは他の物質を変化させることで生活を楽にさせてきたが、彼女の世界の住人は自身の身体の発達にのみ異常に進化している。
脳、臓器、筋肉、骨、皮膚、その他のありとあらゆる、人間と呼ばれる生物の中身を進化させた存在。それが彼女たちだった。
だが、それが……だったと言った。
「見てのとおり、今はそのホールは無い」
「どうなったんだ」
「殺された、ホールを形成していた少女が」
「誰に?」
「わからない。ただ……私達とは違う何かが殺した。それだけはわかる」
「どうしてだよ」
「知れるからだ。私達の誰かがそれを感知しないことはありえない」
「意識を共有してるからか……でも、そこから離れられることだってできるだろう? だったらこっそりそのホールってのから抜け出して殺す事だってできるはずだ」
「そんなことをすれば一瞬で捕まる。形成された日からホールの常時アクセスは義務だったからな」
「捕まるって……警察みたいな機関があるのか?」
「…………警察とはあれか。素っ裸で街中をうろついていたら赤く光る乗り物で追いかけてきた奴らか?」
「……まさにそれだが、そんなことしたのか?」
「した。お前に会う前に厄介になっていた男と待ち合わせをしているとき、暑かったから脱いだだけなのに」
「この世界じゃそれは犯罪なんだ。ていうか、お前のいた世界じゃ人前で素っ裸になって大丈夫だったのかよ。えらく緩い法律とけしからんモラルだな」
「いや、追いかけてきた」
「じゃあやめろよ!?」
「あのスリルはたまらないからな」
「追いかけられることに快感を覚えちまってる!」
「話を戻そう」
――――唐突だった。
「ホールのアクセスは5歳を越えたと同時に義務付けられている。それを破ると大人子供を問わず処罰を受ける」
「……そうやって、互いを監視し続けることで争いを起こさないようにしていたのか」
「そうは言っても、実際その機関が働くことは無かった。それぐらいあの場所は居心地が良かったんだ」
「…………ま、こっちにも似たようなものはあることだしな」
チャットがある意味そういうものだろう。仕事の合間、授業が終わった休み時間、暇なときならいつでも見られるそれは遠く離れた人間とも話せる憩いの場。それが急激に発展を遂げたと、そういうことだ。
もしそれが無くなったら、俺たちの世界ではまだ軽いものだ。精々諸所から苦情が殺到するくらい。
だが彼女たちの世界の場合はちがう。それが戦争を止める唯一の方法であって、唯一のコミュニケーション方法だったんだ。
言語が必要なくなった。日常生活で使われなくなった言葉は廃れてやがて姿を消していった。
だがもしそれが必要なときが来たら? 一度手放したものが必要になっても手遅れだ。
そして、その『もし』が起きてしまった。
「ホールが無くなったあとは酷いものだった。一週間もしないうちに各地で紛争が起きて、やがて世界を巻き込む戦争になった」
俺は小休止とばかりにコーヒーを入れに台所へと向かう。
イヴもそれをわかってか話を止め、口を強く結んだまま動かなかった。
台所から一瞥したイヴは、思い出した恐怖に身体を震わせていた。




