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狂気

 頭の中にどす黒い感情が満たされていくのを感じる。今まで潜まっていた日頃の鬱憤が開放されたようだった。心の根底の更に奥、無意識の中にあった頑強な扉が壊されて負の感情があふれ出てくる。それでいて頭は酷く冷静だった。頭の冷えが全身に分派されて広がっていく。冷たい血液を輸血されたように一気に体が冷えたような錯覚に陥る。


 目の前に居るのは俺のことを愛しているといった女の身体を奪ったバケモノ。許せるわけが無い、許すのはカナを取り戻して、ぶっ殺した後だ。


 拳を握る。右手は先ほど奴の刃を止めたときに血だらけになっていたが、痛みが麻痺していたので気にせず握りこぶしを作れた。


 目の前に居る何者かに焦点を絞る。


 ……と、ここでふと気がついた。


 「おい、おまえなんて呼べばいいんだ?」


 俺に蹴られた部分を気にもせずに立ち上がった 『ヤツ』 に疑問をぶつける。いつまでも抽象的な呼び方をしているわけにもいかない。かといってカナと呼べるわけも無く。


 「聞いてどうするんですか?」


 「聞いたらお前を殴るときに実感が湧く。ああ、俺は今○○を殴っているんだってな」


 『ヤツ』 の俺を見る目が変わる。先ほどの様な見下した視線ではなく未知の存在に出くわしたような訝しむ目。恐怖の色は見られないが困惑が広がってるのがわかる。バケモノと思っていたが、存外人間らしい部分もあるじゃないか。


 まぁ、俺の本性というか、この裏面を見るのはこいつが四人目だ。


 一人目は中学の頃に同じクラスだった女子にセクハラをしていたセンコー。現場を目撃した俺は有無を言わさず近くにあったパイプ椅子で殴りかかった。切れた理由は、まあその女の子に気があったとしかいえない。


 二人目はその事件の被害者だった女の子。俺が片思いで終わった子だ。事件が終わった後も俺を避けて怖がったそぶりを見せていた。俺の悲しい青春の断片。


 三人目は問題ありだ。こいつは俺のその本性を見抜いた上で近寄ってきた。首輪を繋ぐように近くに居たほうが対処しやすいと目の前で公言しやがった。そう、いなくなった仲間の一人、虚蔵 縁。


 彼が言うに俺は獣同然らしい。遠巻きに見ている分には静かで害は無いが、下手に刺激すると危険だと。


 だとすると、目の前の化け物は俺を刺激しすぎた。


 「もう一度、名前は?」


 「…………リベカ」


 理由なんて簡単だ。


 「そうか、リベカか。じゃあ、リベカ――――」


 だって、俺はこんなにもブチギレテイルのだから。


 「――――殺すぞ」


 聞こえるか聞こえないかの声量で殺害を宣言し、ゆっくりと彼女に歩み寄る。一歩一歩地に足をつけて距離を測るように近づいていく。リベカと自称した彼女の身体が強張るが眼に見えた。身構え、こちらを改めて敵として認識した。


 その俺を睨みつける視線をしているのがカナの顔だったことに胸が締め付けられるように痛んだが、彼女は必ず戻ってくると信じて、俺はリベカの元へ疾駆した。


 走り出した俺に合わせてリベカも切れ味の良い鋭利な指を綺麗に揃えて手刀で応戦する。彼女の手刀の矛先は俺の頭部、つまりは顔面だ。タイミングを合わせた彼女の行動は俺の速度と見事合致し、俺が彼女の手が届く範囲に入る頃にはすでに振り出されていた。

 

 だが、目前に迫る刃物に遅れることは無かった。


 首を横に振ってその手を避ける。耳元で風を切る音がするが、俺の身体には傷が出来ることは無かった。 

 

 アドレナリンの以上分泌でスローモーションに見えるなどではなく、ただ単に相手の行動の起点を見て行動を呼んだに過ぎない。ボクサーなどが相手の肩を見てパンチのタイミングを計るのと同じ原理だ。


 だがそれを彼女はまるで手品でも見ているように驚愕するばかりだった。自分の手が空を切ったことに眼を見開く。


 俺はその隙を逃すことは無かった。


 未だに血が止まらない右手を振りかぶった。同時に赤い鮮血を撒き散らし床に半円の赤線が描かれる。


 振りぬき、彼女の顔面を殴った。


 ゴメン、カナ。戻ってからやり返してもいいから今だけは我慢してくれと心の中で思った。


 殴られたリベカは少しふらついただけで倒れることは無かった。だが、口元から血が垂れており、口の中を切ったようだった。それを拭い、手に付いた血を眺めるリベカ。


 喧嘩慣れしているわけではないが、俺がこういう才能を持った人間だということはよく理解していた。


 『相手が人間なら必ず勝てる』そういった自信が俺の中にはずっとあった。物心付いた頃から、それを知ってからは静かに生きることに生を尽くしてきたつもりだったが。


 今その指針は崩され、人間ではないが、人間の身体を持つ化け物と俺は対峙している。


 実際、彼女の動きは人間が本来するものではなかった。今の殴打のお返しとばかりにこちらへと駆ける速さは人間の限界を超えている。三メートルほど離れていた場所に居た彼女はまばたきの間に眼前に迫っていた。


 それを俺は冷静に分析した。いや、正確には俺がではなく、俺の中の獣の部分がだ。


 回れ右の要領で全身を傾け、腹部に向かっていた手刀の、刃が出ていない甲の部分を左手で軽く叩き、いなしてかわす。そのまま右足を振り上げて彼女の腹部を蹴り上げた。


 今回のはさすがに効いたのかガクッと目の前で膝をつく。


 もう一度言おう。彼女はやはり化け物である。先ほどから俺に一太刀も浴びせられないがやはり人間のスペックをはるかに超えている。


 直線的に向かっては負けると踏んだのだろう。リベカはいったん距離をとって、屋上に置かれていた換気装置を手に取り、それを力任せに持ち上げた。付随していたコードなどがぶちぶちと気味の良い音をたてて引きちぎられる。


 そしてそれを俺に向かって放り投げた。


 放物線を描かず直線で俺に向かってくる物体は明らかに人間単身でどうにか投げ飛ばせるものではない。大の男でもこうも綺麗に投げられないだろう。


 だけど、それはおそらく俺でなくても簡単に避けられるものだ。なにせ距離があった。おおよそ十メートル。亀でも避けられることはないが、兎なら確実に避けられる。


 だからこれは牽制のつもりだったのだろう。俺がこの換気装置を転がって避けた先に回りこみ奇襲をかけるという単純な作戦。だが普通の人間なら確実に効果のある作戦だ。


 ならばそれを逆手に取ろうと、俺は飛来してくる物体に向かって走り出した。それを紙一重で避けて、俺と換気装置の直線状に居たリベカを視認する。案の定、彼女は俺が左右どちらかに避けると思い込んでいたため驚き、その分対応が遅れた。


 だがそれでも人間を超えた能力を彼女は持っていた。対応が遅れても、人間を超える速度で反応し、向かってくる俺に対して再度右手を振り下ろした。


 そしてそれすらも俺は逆手に取る。至極単純な方法で。


 左足で床を踏みしめ制動する。自分の速度を急激に落とし、彼女の攻撃が届かないギリギリのところで踏みとどまる。

 

 右手を振り下ろしていた彼女は前のめりになりバランスを崩した。


 そこへ再び右手を振り上げ、今度は胸部へ拳をたたきつけた。


 そう、スペックの差だ。彼女は常軌を逸した能力を持っているが、俺の場合は常軌を逸した道すらも越えたスペックを持っていた。



 

 


  

  

 

主人公が狂戦士化してしまいました。構想段階じゃこんなはずじゃなかったのに…………。


まぁ、こう言う展開も嫌いじゃないかと思い書いちゃいました!  


……ああ~、また構想を練り直さないと OTL

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