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日本転生  作者: あき♪
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第四章

今日の仕事から新宿駅に戻ってきた。さすがに20時過ぎているとはいえ、帰宅ラッシュの最中だろうか。明日の現場のために先輩が工具かと必要品を車に乗せてもっていってもらえるのはありがたい。なにせ事務所によらずに済むのは何より大きい。

そういうところに気を回せるから先輩は仕事の依頼が絶えないのだろう。俺も含めて周囲からの信頼も厚い、できればあんな風に歳をとっていきたいものだ。

いい歳の取り方とは、あんな感じだろうな。

俺にもそんな歳の取り方ができるのだろうか。今のところ後輩にはいい先輩という認識は得られているだろう。それでも一緒にいる時間の先輩ほどの信頼はないだろう。一緒に過ごす時間と感情が信頼を育てるのだろう。先輩は俺の知らない後輩のことをいろいろと知っているようだ。たぶん、彼氏ができて一番に報告するのは先輩だろう。そう考えると、俺は後輩への好感度はそれほど高くないということがわかる。あんまり考えすぎると悲しく なるし、ここらでやめておこう。

そろそろ改札も近い。

東南口改札から出る。

階段を下って左へ

いつも御用達のキリンシティがある。

お腹も減っていることだし、今日も夕飯はここにしよう。

仕事終わりに達人ビールを一息にあおる。仕事後のビールは格別だ。やはり、時間の余裕があることと適度な疲労がよりおいしく感じさせるのかもしれない。

アルコールが喉を下りて、五臓六腑に染み渡る。なんて幸せなんだ。こんな日がいつまでも続けばいいと思ってしまう。

メニューを開いてフードを探す。ここの旬のメニューが良くてついつい頼んでしまう。今月のかぶ料理、魚はワカサギのフリット、ビールのお供にぴったりだ

その後はいつもの赤牛の旨塩焼きでお腹いっぱいとなる。あいつがいたら2人でシェアしたもんだ。旨塩焼きはあいつの好物だったが今は俺も大好きだ。

ラムが臭くて食べられないとか、ビールは苦くて飲めないとかいろいろ注文の多いやつではあったが、たまに振り返ると懐かしさがこみ上げてる。電車でへんなことを考えていたからだろうか。アルコールの回りすぎかもしれない。明日は朝から仕事だし、そろそろ出るとするか。


会計後、のろのろと歩きだす。

そういえば今日の行きで通った道か。

帰りは違う道で帰るとしよう。ついでに毎年先輩に付き合って行ってる伊勢丹の「サロン・デュ・ショコラ」の広告でも見て帰るとするか。

一応の目的も決まったことだし、ふらふらと歩きだす。

しかし、今日はまた、やけにアルコールの回りが早いようだ。ビール二杯でここまでとは、今日は少し疲れているかもしれない。

どうしようもなければ新宿三丁目からタクシーも検討した方がいいかもな。

そんなことを考えていると、目的の伊勢丹が見えてきた。

伊勢丹のショーウインドウにはサロン・デュ・ショコラの広告がでかでかと貼り出している。今回の開催は1月15日から2月13日までか。

しばらくしたら、先輩から妻へのお礼チョコを買いに行こうと連絡が来るだろう。今年は後輩も誘いって三人になりそうだ。初めてだろうし、大はしゃぎするのが想像できる。


さて、そろそろ交差点か。ちょうど信号が点滅を始めたころだ。

走れば間に合うし、少し走ることにする。

ちょっとふらつく気もするが、なんだまだまだ走れるな。

真ん中に差し掛かったところで周りに誰もいないことに気が付く。

あれ、反対側の人が大声をあげている。なんだ、後ろになにかいるのか。

右側の手で方向を盛んに示しているのがわかる。

そこからはすべてがスローモーションだった。

死ぬときは大体アニメでもこんな感じだが、やっぱり実際もこんな感じに、体感時間が引き延ばされるもんなんだと思う。

右に顔を向けると左の前輪がないトラックが横滑りしてきているのが見える。

大通りだからみんなは、音で気づいたようだ。死ぬのは俺一人ってことだな。

ゆっくりとトラックが迫ってくる。路面にこすれた場所から火花が散っているのが見える。これでトラックを蹴ってジャンプしたら、後で動画はおおバズり間違いないな。

頭はやけに冷静だが、体は全く動かない。

これは本当にまずいかもしれない。これはさすがに完全に死ぬな。

そう思って目を瞑ると楽しかった人生の思い出が蘇ってくる。

高校時代に電気工事士の資格を取れて、友人たちと大喜びしたこと。

就職に際して上京し、先輩にあれこれ世話を焼いてもらったこと。

仕事もある程度できるようになって、仕事を任せてもらえるようになったこと。

真面目に自炊を頑張ろうとあえて、家賃の高い若松河田に住んで、追い込んでみたこと。

引っ越し祝いにあいつと電子レンジを買いに行って、一緒にレンチンパスタを作ったこと。

ああ、そうだった。今日の夕飯にちょっと贅沢な酒のつまみを解凍していたんだった。

まっすぐ帰っていればこんなことにならなかったかもと思う。

まだ、思っているよりも時間があるな。

目を開けてみる。

目の前に緑のプレートと4つの数字「1192」

それが俺の最後に見たものだった。

ものすごい衝撃が体を襲う。もう何も考えられない。

ああ、誰かが呼びかけてくれているようだが、もう目も明けられない。

体の感覚がうすくなってきている。

これが本当に死ぬってことなのか。

残り少ない時間の中で、人生を振り返る。

普通に生きて、普通に死ぬ。これはやっぱりすごいことなんだな。

途中リタイアになってしまったが、不自由なく楽しく暮らせたことは、俺の人生意外といい人生だったんだ。そう思うととても幸せな気持ちがあふれてくる。

もう感覚はないが最後は笑顔で終えたいな。俺は最後に笑顔を作れたと思う。


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