プロローグ
頭の奥で、鈍い音が鳴っている。
――痛い。
それが最初の感覚だった。
まぶたを開けようとするが、視界は黒いまま動かない。いや、目は開いているのかもしれない。ただ、光がない。
夜だ、と遅れて理解する。
冷たい空気が頬に触れている。湿った匂い。土の匂いだ。だが、わずかに空気の流れがある。淀んではいない。完全な閉鎖空間ではなさそうだ。
ここは、どこだ。
体を動かそうとした瞬間、頭の内側を釘で打たれたような痛みが走る。
「……っ」
声にならない音が喉から漏れた。
横たわっているらしい。背中に硬い感触。砂利か、岩か。手を伸ばす。指先がざらりとした土を掻く。
洞窟。
なぜか、その言葉が浮かぶ。
だが理由はわからない。
ゆっくりと、手を横へ滑らせる。
土。石。
そして――
違う。
冷たい。
硬い。
土でも岩でもない、均質な感触。
指先が触れた瞬間、わずかな反響が返る。
鉄。
自然のものではない。人工物だ。滑らかで、均一な面。角があり、継ぎ目のような段差もある。
なぜ、こんな場所に。
指を這わせる。
平面をなぞり、縁を探る。
その途中、指先が引っかかった。
規則的な凹凸。
土のざらつきとは明らかに違う。
ゆっくりと、何度も往復する。
一本の縦線。
また一本。
曲がり。
丸み。
指先で形を追う。
数字だ、と直感する。
1。
1。
9。
2。
――1192。
凹んだ数字を、指がなぞる。
それが何を意味するのかは、思い出せない。
だが、どこかで見覚えがある気がする。
胸の奥がざわつく。
思考を巡らせようとするたび、頭痛が強くなる。
こめかみの奥が脈打つ。鼓動に合わせて痛みが膨らむ。
記憶が、掴めない。
自分が誰なのか。
なぜここにいるのか。
何一つ、形を持たない。
ただ、痛い。
視界は黒いまま。
鉄の冷たさと、凹んだ四桁の感触だけが、現実の証明のように指先に残る。
息が荒くなる。
頭の奥で、何かが割れる。
その瞬間、意識が急速に遠のいた。
闇が、さらに深くなる。
何もわからないまま、俺は再び沈んだ。




