ツクヨミと宮
ツクヨミ「うーん……んー……」
シナツヒコ「ツク姉、カヤノ姉から漬物の差し入れ……。ん? どうした?」
ツクヨミ「んー……、あら、シナ君、居たんだ」
シナツヒコ「今な。どうした? 珍しく悩んでいるようだけど」
ツクヨミ「それが……、ちょっとどうしたものかと言う『願い』を受け取ってしまって……」
シナツヒコ「願い? 参拝者か?」
ツクヨミ「……そう。それで……」
シナツヒコ「んなもん、どうでもいいなら適当に流してればいいじゃないか。普段もそうしてんだろ」
ツクヨミ「それが……たまたま聞いてた父さんがはりきっちゃって……」
シナツヒコ「とーちゃんが? じゃあ押し付けとけばいーじゃねーか」
ツクヨミ「恋愛成就なのだけれども……」
シナツヒコ「ふーん……。月讀宮で、また珍しいな……」
ツクヨミ「そうなの……」
シナツヒコ「でも、とーちゃんがはりきってんなら、まー、良いきっかけくらい与えてくれんじゃねーの?」
ツクヨミ「……父さんの恋愛成就って、なんか成功する感じがしないのよねぇ……」
シナツヒコ「まぁ、日本初の離婚夫婦の旦那だしなぁ。でも、それこそ、もう任せておけばいいじゃねーのか?」
ツクヨミ「父さんが失敗して、変な噂が流れて、私の宮が弁天のところみたいに破局のスポットみたいになったら嫌じゃない」
シナツヒコ「……んなもん言ってたら、10月の出雲の縁結びなんてどーなんだよ」
ツクヨミ「あれはいいのよ。だって、その時は父さんでさえ、八百万居る中のただの一柱に過ぎないんだし。でも、私の所だと別だわ。ここは父さんも母さんも奉ってあるけれど、基本は私よ。それこそ名前が私の名前じゃない」
シナツヒコ「んー、まーなー。ツクヨミは実は弁財天以上に嫉妬深い神だった。なんてのも出るかもな。面白い」
ツクヨミ「面白い。じゃないわよ。それで奉納品(甘いもの)が減ったらどうしてくれんのよっ」
シナツヒコ「……いや、んなこと言ったって……、いや、ごめん……。それで、ツク姉はどうしたいんだよ」
ツクヨミ「だから、父さんの手伝いをして、願いを叶えてあげるかどうかを迷ってるの。でも私も恋愛成就なんてほとんどやったことないし……」
シナツヒコ「……でも、いいんじゃねぇか? そんな深刻にならなくてもよ」
ツクヨミ「私の奉納品(甘いもの)がどうでもいい、と?」
シナツヒコ「いや! そうじゃないってば! だから縁結びだとか恋愛成就だとかだよ!」
ツクヨミ「……何が言いたいの?」
シナツヒコ「ツク姉はさ、10月に出雲行っても、酔って縁結びとかしねぇじゃねぇか」
ツクヨミ「だから困ってるのだけれど……」
シナツヒコ「10月の縁結びなんか、ただの余興みたいなもんだよ……。そもそも俺らは人間の感情とかまで操るわけじゃない。要はきっかけを与えるだけだ。きっかけを生かすも殺すも人間次第。だからよ、そう小難しいことじゃねぇんだよ。上から見ながらちょっと配置を変えてやるだけだ。それでもだめならその人間がダメだってことだ。それ以上を祈られてもねだられても、その人間の不始末だ。だからよ、もう父ちゃんが動いてるってんならそれでいいじゃねぇか。こっちはそれ相応に対応してやった。それ以上は人間の努力の部分さ。姉ちゃんが気にすることじゃねえんだよ」
ツクヨミ「だとしても、それで悪い噂が流れたら気分の良いものでもないわ」
シナツヒコ「だからよ、そう気にすんなってこった。そんな噂を流す人間は、そんな程度の人間だったってことよ。放っておけばいい。そもそも今は少子化がトレンドだ。数世紀に一回は起きる、人間のサイクルみてぇなもんだ。恋愛なんざ成就しねぇ方が当たり前の時期なんだよ」
ツクヨミ「でも、それで、もしそうなったら、どうしてくれんのよ……」
シナツヒコ「そんな時ゃアレだ。ツクヨミノミコトには甘い物を奉納すれば、願いを叶えてくれるって噂でも流してやんよ」
ツクヨミ「……わかったわよ。父さんに任せとく。多分上手くいきっこないけれど。それで変な噂が流れたら、代わりにその甘い物を奉ればいいって噂を流してよね」
シナツヒコ「おう。任せとけ……」
ツクヨミ「……マッドケーキなら尚効果が高いって噂でお願いね」
シナツヒコ「……それは、どうなんだ?」
ツクヨミ「似たような感じで、閻魔くんなんてこんにゃくだらけよ」
シナツヒコ「あいつ、こんにゃく好きだったのか……」
ツクヨミ「酒と魚が好物よ。こんにゃくは普通みたい」
シナツヒコ「そりゃあ、気の毒にな……」
その後
シナツヒコ「アマ姉、カヤノ姉から漬物の差し入れだ」
アマちゃん「わーい。お漬物~。(パリポリ)」
シナツヒコ「早速食べるのか」
アマちゃん「んー! カヤちゃんのお漬物はおいしーね~」
シナツフイコ「……茶でも淹れるか」
アマちゃん「ジー……」
シナツヒコ「……なんだよ、じっと見て」
アマちゃん「シナっち、またお願い事聞いてあげたんだねー」
シナツヒコ「こ、これはたまたま、あれだ。気が向いたから……」
アマちゃん「ツーちゃんとこのお願い聞いてあげたんだ~。二人の神力上がってる~」
シナツヒコ「いや、とーちゃんがやらかしそうで見てられなかっただけで……」
アマちゃん「シナっちはやさしーねー」
シナツヒコ「そんなんじゃねーし!」
アマちゃん「そっか~。こっそり手助けしてあげたんだ~。パリポリ……」
シナツヒコ「気が向いただけで……」
アマちゃん「気が向いて神風吹かせちゃうんだもんね~」
シナツヒコ「いつの話だよ」
アマちゃん「げんこーだっけ? パリポリ…」
シナツヒコ「……茶は、玉露でいいか?」
アマちゃん「げんまいちゃー」
シナツヒコ「はいはい」




