ツクヨミとマッドケーキ
とある新月の日
ツクヨミ「あー、風が気持ち良いわねぇ!」
シナツヒコ「一応、俺が制御してるってのは忘れんでくれ」
ツクヨミ「飛行機の上って楽しいわ!」
シナツヒコ「そりゃ、ようござんした」
ツクヨミ「……でも確かに、ここに一人で7時間も乗っているだけだと暇になるわねぇ」
シナツヒコ「今回は9時間だぞ。オーストラリアだからな」
ツクヨミ「ぶりぺんす空港……だったかしら?」
シナツヒコ「ブリスベン空港だ。オーストラリアの東側の空港だな」
ツクヨミ「他にも空港はあると思うのだけれど、どうして今回はそこなの?」
シナツヒコ「それはまぁ行ってみればわかる」
ツクヨミ「そ。なら、しばらくはここで眺めを楽しむとしましょう!」
シナツヒコ(なんか、普通に海外旅行に行く人間と同じテンションだなぁ……)
ツクヨミ「ほら、とっておきの大吟醸も持ってきたのよ! 飲みましょ!」
シナツヒコ「テンションたけー……」
オーストラリア上空
ツクヨミ「見えてきたわ! へぇ。これがオーストラリアなのね」
シナツヒコ「まだ降りねぇぞ。しばらくこのまま進む」
ツクヨミ「あっ! あれってもしかして有名なエアーズロックかしら?」
シナツヒコ「いや、違うよ……。それはここからじゃ見えねーよ」
ツクヨミ「空の香り違うわねぇ。面白いわ!」
シナツヒコ(修学旅行の女子高生……)
ブリスベン空港
シナツヒコ「ふぅ、着いたな」
ツクヨミ「えぇ、着いたわね! ……え? ここからどうするの?」
シナツヒコ「まずはロビーに行く。あとは、ツク姉頼んだ」
ツクヨミ「え? え?」
ブリスベン空港 到着ロビー
シナツヒコ「んじゃ、俺はここまでだ。あとは頑張れよ、ツク姉」
ツクヨミ「え? えぇ?」
シナツヒコ「俺は『日本の航空安全の神』だからな。このターミナルビルからは出ねぇよ。だから、ここからはツク姉が買い物に行くんだよ」
ツクヨミ「え? え? え?」
シナツヒコ「これ、両替しといたオーストラリアドルな。んで、シャトルバスに乗ればスカイゲートってエリアに行ける。そこに24時間営業の『ウールワース』ってスーパーがあるから、そこにお目当てのマッドケーキも売ってるはずだ。ちゃんと人間に姿が見えるようにしろよ」
ツクヨミ「……ちょっと待って! それだと私が『不法入国神』になっちゃうわ」
シナツヒコ「安心しろ。スーパーは空港の敷地内だ。完全にOKってわけでも無いが、完全にNGって訳でもねぇ。それに新月で神力が弱い状態の今のツク姉なら大丈夫だろ。と言う訳で、買い物に行ってきてくれ」
ツクヨミ「……バス? 私一人で? バスに乗るの?」
シナツヒコ「そう。直通のシャトルバスだから迷子になる心配はない。空港の敷地外にはでるんじゃねぇぞ」
ツクヨミ「……え? 無茶振り……」
シナツヒコ「ならマッドケーキを諦めるか?」
ツクヨミ「行ってくるわ!」
シナツヒコ「おう、気をつけてな」
数十分後 スカイゲート
ツクヨミ「……広い。広すぎるわ。なんなのこのスーパー……」
ツクヨミ(確か、5ドルで買えるのよね。どこに置いてあるのかしら?)
ツクヨミ「ここは……お菓子コーナー……かしら。ティムタム……? ベジマイト……? これ、何に使うのかしら? ええっと、マッドケーキは……。ここはベーカリーコーナー? かしら」
陽気な店員「G'day mate! How ya going?(いらっしゃい!調子どう?)」
ツクヨミ「ひっ! え? え、ええと……えぇっと……」
陽気な店員「Lookin' for somethin', darlin'?(何か探してるの?)」
ツクヨミ「え、えーと……。マッドケーキ……プリーズ……(で、いいのかしら……?)」
陽気な店員「Oh! The classic Mud Cake?」
ツクヨミ「イ、イエス。ふぁいぶだらーず……。すいーと、わん……」
陽気な店員「Haha, right this way! You can't leave Aussie without it!(ハハッ、こっちだよ!これ買わなきゃオージーのスーパーとは言えないからね!)」
ツクヨミ「サ、サンキュー……」
ブリスベン空港 到着ロビー
シナツヒコ「お、帰ってきたな。案外早かったじゃん……って、ツク姉?」
ツクヨミ「ハァ……ハァ……」
シナツヒコ「……髪乱れてるぞ。ツクヨミノミコトともあろう神が」
ツクヨミ「…………ってきたわ」
シナツヒコ「ん?」
ツクヨミ「買ってきたわ! バスの運転手さんは陽気すぎるし、スーパーは神社三つ分くらい広かったし、店員さんに話しかけられて何が何だかよく分からなかったけれど! でも買えたわ! ほらっ!」
シナツヒコ「おー、やったじゃん。……ってなんか多くねぇか? いち、に、さん、し、ご……。5個も買ったのかよ!」
ツクヨミ「ふふっ……。本当はもっと買おうかと思ったのだけれど、なんで30ドルしかくれなかったのよ~!」
シナツヒコ「一個5ドルって聞いてたから、それで十分釣りも来ると思ってたんだが……」
ツクヨミ「ふふ……うふふふふふふふ……ついに、ついに渇望してやまなかったマッドケーキが食べられるわ! しかも本場!」
シナツヒコ「そ、そうか良かったな……」
ツクヨミ「せっかくだし、一つここで食べていきましょう!」
シナツヒコ「いや、そろそろ日本に戻った方が……」
ツクヨミ「いいじゃない! どうせ帰りは瞬間移動ですぐに伊勢なんでしょう? 一個だけ! ね? いいでしょ?」
シナツヒコ「……わかったよ。ってどこで食えるんだ?」




