泉の上から真実を暴露する
私は泉の精霊スフィーリラ。
500年ほど前から、ここ一帯の森の、聖域の主をしている。
聖域はランド国内に位置し、ランドの国民や王族と良い隣人関係を保ってきた。
彼らは聖域と私に敬意を払い、たくさんの感謝を伝えてくるので、私も微力ながら手を貸している。
居心地のいいこの国はには、私以外の小精霊たちも多く存在している。
故に、他国から妬まれるほど、豊かな国だ。
だがこの国は、大陸の中で最も大きな国で、軍事力も高い。
だから他国が妬んでも、戦争をふっかけられることなどできない。
それどころか支援してもらっている手前、戦争なんで始めたら、国が滅ぶだろう。
この国が愚かな真似をしなければ、何かあれば、私も隣人としてこれからも手を貸すだろう。
小精霊たちが喜ぶこの環境を失いたくないから。
いつものように、水面で小精霊たちと戯れていると、聖域に人が入ってきたのを感じた。
知らない気配が一つと、よく知った気配が複数。
この国の王族たちだ。
特に重要な時期でも行事でもないのに、勢揃いしている。
珍しいことだ。
何か問題でも起きたのだろうか?
私は泉の水面の上に立ち、来訪者たちを待った。
「精霊様、ご機嫌麗しゅう。」
「うむ。全員でどうした?」
「新たな聖女が見つかりましたので、ご挨拶に参りました。」
「聖女?何処にいる?」
「「「「……え?」」」」
「か、彼女が聖女です、精霊様!」
第一王子が示す場所にいるのは、知らない女。
「それは、聖女ではない。そんな穢れた魂を持つ者など、久しぶりに見た。どれだけの人間を不幸にしたのだろうな。」
これが、聖女であるはずがない。
何を言っているのか。
聖女は精霊の言葉を聞き、精霊と人を繋ぐ存在。
精霊は、穢れた魂を嫌う。
こんなに穢れていれば、相当、精霊に嫌われているだろう。
「わ、私は教会で認められた聖女です!」
「はあ……私が聖女を間違うとでも?愚かな……」
王族は全員、難しい顔をしている。
間違ったものを優遇すれば、混乱が起きるだろう。
早めにわかってよかったと思うが。
「つまり教会の判定が間違っていたということですね。」
「聖女の判定は、どうやっている?」
「教会にある精霊石が反応するかどうかで、判断します。」
「お、お待ちください!私は確かに、精霊石が反応するのを見ました!」
第一王子が必死に訴える。
ここで間違えを認めてしまえば、その地位が危うくなる。
だから必死なのだ。
結果は見えていたとしても。
「考えられるのは、その女の血縁者だろう。接触が多ければ、一時的に力の一端が移ってもおかしくない。まあ、そこまで接触するのは、普通はないことだが。」
普通の接触で力が移るなら、この国の聖女と判定される人間はもっと多いだろう。
判定されるほどの接触と考えると、胸糞悪い想像しかできない。
「普通の接触でないなら、どのような接触でしょう?」
「……本来の聖女の血を浴びるほど、暴力行為をしている可能性が高いな。」
「「「「なっ……」」」」
「すぐに調査した方がいい。まだ生きていればいいが……」
「戻り次第、すぐに調査します。精霊様、申し訳ありませんでした。それから、ありがとうございました。」
国王に合わせて皆が礼をとる中、例の女はずっと文句を言い続けている。
「私が聖女よ!間違いないわ!」
あまりにも喚くので、血中濃度を操作して、気絶させた。
私はうるさいのが嫌いだ。
近衛騎士が女を担ぎ、一行は聖域から退出した。
その後の展開が気になったので、小精霊の目を通して見てみた。
私が思った通り、聖女はあの女の異母妹。
庶子とのことで、義母やあの女に虐げられていたらしい。
かなり危険な状態だったが、小精霊が手を貸したことで、何とか持ち直したらしい。
今は王家が保護している。
また、ろくに調査しなかった第一王子は、王族のままであるが、王位継承権を失うことになった。
まあ、調査もしないで一つのことだけを信じるのは、為政者として失格だろう。
わざとではないにしろ、本物の聖女を見逃したのだから。
教会も今回のことを教訓に、精霊石だけで判断しないように徹底することにした。
あの女とその家族は聖女の殺害未遂で、財産没収の上、鉱山送りになった。
小精霊は、あの家族に一切近寄らないので、生活には苦労するだろう。
自業自得だ。
また今回の件を受けて、家庭内でも行き過ぎた虐待は、法律で取り締まることになった。
その結果、何人かの命を救うことになったのだ。
あの女が聖女になったら、この国は荒れていただろう。
そうならなくてよかったと、ホッとしたのだった。




