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旅人クリス『掘る人達』

作者: すだチ

 クリスは新米の旅人さん。今日も元気一杯、世界のあちこちを飛び回っています。



 だだっ広い荒野の真中を今、クリスは独り歩いていました。ぶっちゃけ、道に迷っていたのですが、彼女は特に困る様子も無く歩いていました。ひょっとしたら、何か面白いものを見つけるかも知れない。不安よりも好奇心の方が勝っていたのです。


(お、早速何か見つけたね)


 誰かが地面を掘っているのを見、クリスは其方の方に歩いていきました。一心不乱に何かを掘っている男の人──白髪混じりのその人に、クリスは声を掛けました。


「こんにちはー」

「…………」


 余程夢中なのか、その男の人からは返事が返ってきませんでした。クリスは内心ムッとしつつも、男の人を観察することにしました。作業服のその男の人は、何か複雑そうな機械を頭と腰に付け、手にはつるはしを持っています。クリスは何だか気になって、もう一度声を掛けました。


「ねぇ、オジサン、何やってんの? 何を掘り出そうとしてんの? そんなに一生懸命になって──ねぇ!」


 最後の強めに言った「ねぇ!」が効いたのか、男の人はハッとしたように顔を上げました。その顔は青ざめていて、汗だく状態でした。


「ああ、なんだいお嬢ちゃん? いつから居たのかい?」

「さっきから居たんだけど──まぁいいや。オジサン、何掘ってんの? あ、金銀財宝とか?」


 クリスが目を輝かせてそう言うと、男の人は笑って手を振りました。


「違う違う。そんないいもんじゃないよ。私が掘っているのはね……地雷、さ」

「……地雷……!?」


 クリスはぎょっとして、真下の地面を見つめました。オジサンはニヤニヤ、面白そうに笑っていました。


「何でそんなものを掘り出そうとしてんの? 危ないよ」

「危ないからこそだよ。地雷は危ない。誰かがうっかり踏んでしまったら大変なことになる。だから私はそれを掘り出して、安全に始末しているんだよ」


 それを聞いて、クリスはすっかり感心してしまいました。


「ふーん、大変そうだけど、立派なお仕事だねぇ。

 オジサン、良かったらアタシも手伝おうか? ちょっとの間なら手伝えると思うんだけど」


 クリスはそう言って、自分には特殊な力があって、人の「想い」を探知することができるということ、地雷にはきっと製作者の気持ちが込められているだろうから、見つけ出せるかも知れないということを説明しました。その後で、


「……ま、やったことはないんだけどね」


 小さく呟いておきましたが。男の人はそれを聞いて、


「申し出は大変ありがたいが、地雷除去の仕事はとても危険だ。素人に任せる訳にはいかないよ。これは専門家の仕事だからね」


 と、丁重に断りました。クリスはそれでも、しばらくの間男の人の仕事をじっと見ていました。単純に、興味があったからです。


「──お、何か出てきたね!」


 出て来たのは地雷ではなく、きらきらと光る、小さな指輪でした。クリスは興奮気味に言いましたが、男の人は覚めた様子で、つまらなそうに指輪を見ていました。


「こういうのが出て来ても何の意味もないんだよ。だって私の仕事は地雷掘りであって財宝掘りじゃないんだから」

「……そーなんだ?」

「良かったらこれ、お嬢ちゃんにあげるよ。私には必要無いものだからね」


 クリスは喜んでその指輪を受け取りました。その後一時間くらい男の人とお喋りしてから、お礼を言って出発しました。



 相変わらず荒野は広がっていました。でも、彼女は特に困る風も無く、歩き続けていました。また何か面白いものを見れるかも知れない。そう思っていたからです。


 と、また誰かが何かを掘っているのが見えました。クリスは駆け寄り、声を掛けました。


「こんにちはー」

「…………」


 余程夢中なのか、その男の人からは返事が返ってきませんでした。クリスは内心ムッとしつつも、男の人を観察することにしました。作業服のその男の人は、何か複雑そうな機械を頭と腰に付け、手にはつるはしを持っています。クリスは何だか気になって、もう一度声を掛けました。


「ねぇ、オジサン、何やってんの? 何を掘り出そうとしてんの? そんなに一生懸命になって──ねぇ!」


 最後の強めに言った「ねぇ!」が効いたのか、男の人はハッとしたように顔を上げました。その顔は青ざめていて、汗だく状態でした。


「ああ、なんだいお嬢ちゃん? いつから居たのかい?」

「さっきから居たんだけど──まぁいいや。オジサン、何掘ってんの? あ、地雷とか?」


 先程のことを思い出しながら、クリスは言ってみました。と、男の人は「あはははは」と軽く笑ってから、首を振りました。


「違うよ。地雷なんて危なっかしいものじゃない。私が掘っているのはね……骨、さ」

「骨!?」


 クリスはぎょっとしました。嫌な想像が頭に浮かびます。死体掘り。男の人は面白そうにニヤニヤ笑っていましたが。


「骨と言っても、私が掘ってるのは化石だよ。考古学に興味があってね。此処からは良質の化石が掘り出せるんだ」

「なーんだ」


 クリスは納得しました。と、同時に、興味が湧いてきました。


「ふーん、なんか面白そうなお仕事だねぇ。

 オジサン、良かったらアタシも手伝おうか? ちょっとの間なら手伝えると思うんだけど」


 クリスはそう言って、自分には特殊な力があって、人や動物の「想い」を探知することができるということ、化石にはきっとその動物が生きていた頃の気持ちが込められているだろうから、見つけ出せるかも知れないということを説明しました。その後で、


「……ま、やったことはないんだけどね」


 小さく呟いておきましたが。男の人はそれを聞いて、


「申し出は大変ありがたいが、化石掘りの仕事はとても繊細なものだ。素人に任せる訳にはいかないよ。これは専門家の仕事だからね」


 と、丁重に断りました。クリスはそれでも、しばらくの間男の人の仕事をじっと見ていました。単純に、興味があったからです。


「──お、何か出てきたね!」


 出て来たのは化石ではなく、綺麗な装飾が施された短剣でした。クリスは興奮気味に言いましたが、男の人は覚めた様子で、つまらなそうに短剣を見ていました。


「こういうのが出て来ても何の意味もないんだよ。だって私の仕事は化石掘りであって財宝掘りじゃないんだから」

「……そーなんだ?」

「良かったらこれ、お嬢ちゃんにあげるよ。私には必要無いものだからね」


 クリスは喜んでその短剣を受け取りました。その後一時間くらい男の人とお喋りしてから、お礼を言って出発しました。



 相変わらず荒野は広がっていました。でも、彼女は特に困る風も無く、歩き続けていました。また何か面白いものを見れるかも知れない。そう思っていたからです。


 と、また誰かが何かを掘っているのが見えました。クリスは駆け寄り、声を掛けました。


「こんにちはー」

「…………」


 余程夢中なのか、その男の人からは返事が返ってきませんでした。クリスは内心ムッとしつつも、男の人を観察することにしました。作業服のその男の人は、何か複雑そうな機械を頭と腰に付け、手にはつるはしを持っています。クリスは何だか気になって、もう一度声を掛けました。


「ねぇ、オジサン、何やってんの? 何を掘り出そうとしてんの? そんなに一生懸命になって──ねぇ!」


 最後の強めに言った「ねぇ!」が効いたのか、男の人はハッとしたように顔を上げました。その顔は青ざめていて、汗だく状態でした。


「ああ、なんだいお嬢ちゃん? いつから居たのかい?」

「さっきから居たんだけど──まぁいいや。オジサン、何掘ってんの? あ、化石とか?」


 先程のことを思い出しながら、クリスは言ってみました。と、男の人は「わはははは!」と豪快に笑ってから、首を振りました。


「違う。そんなチンケなもんじゃないよ。私が掘っているのはな……金銀財宝だ! どうだ、驚いたか!」

「……なーんだ」


 クリスはつまらなさそうに応えました。男の人はクリスの反応が気に入らなかったらしく、やや怒気を込めて続けます。


「いいか! 私は此処でお宝を掘る! でもって、それを金持ち連中に売り飛ばす! それだけで大金を手にできるんだ! これほど儲かる仕事はねぇぜ!」

「なるほどね。ねぇ、良かったら手伝おうか?」


 クリスはそう言って、自分には特殊な力があって、人の「想い」を探知することができるということ、財宝にはその持ち主だった人の気持ちが込められているだろうから、見つけ出せるかも知れないということを説明しました。その後で、


「……ま、やったことはないんだけどね」


 小さく呟いておきましたが。男の人はそれを聞いて、


「へっ、財宝掘りが素人にできるかよ。素人のお嬢ちゃんじゃ、罠に掛かって余計な仕事を増やすだけだ。邪魔すんな、どいてろ」


 と、乱暴に断りました。クリスはそれでも、しばらくの間男の人の仕事をじっと見ていました。単純に、興味があったからです。


「──お、何か出てきたね!」


 でてきたのは財宝ではなく、無骨な筒状の物体でした。信管のようなものが付いていて、その先を男の人は掴んでいて──。


「じ……地雷だぁぁっ!?」


 男の人が叫ぶのとほぼ同時に、クリスはその場から全速力で走り出していました。



 大爆発が、辺り全てのものを吹き飛ばしたのは、その数秒後のことでした。クリスはむっくりと起き上がって、一言何か呟きました。それから、ゆっくりと歩き出しました。だだっ広い荒野の真中を。


「専門家のお仕事って、大変なんだねぇ」


 荒野の風が、クリスの嘆息混じりのその呟きを、何処かに運んで行きました。



 そして、クリスの旅はまだ続くのでした。

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