第一話
日も経ち,森を抜けた,その高い丘から見下ろすと,そこには巨大な国が広がっており,夜でありネオンが綺麗に輝いていた,
「氷の階段は危険だ,坂にしよう,」
滑れるよう,国前の門へと続く広い坂を作った,
「降りるぞ,」
「よし!私いちばん!」
フィリアは嬉しそうに滑っていく,
「ルティーナも行くぞ,」
「はい……でも,怖い,」
「運んでやる,」
「お願い,」
アンリはルティーナを横抱きし,その下まで立ちながら滑っていった,下ではフィリアが尻を抑え,倒れていた,
「冷たい!なんで足で滑れって言ってくれなかったの!」
「そのかわいい姿を見たかったから,と言ったら怒るか?」
「怒るから!」
そんなわけ,
「君ら,客人か?」
門番の男が話しかける,
「はい!私たち,国に会いたい人がいて來ました!」
「入れ,って言いたいが,少し待ってくれ,」
門が開くと,巨大な馬車が門を通り過ぎる,荷台には大量の気を失った人間が乗っていた,
「なにあれ……?」
フィリアは呆然としていた,
「ゴミだ,この国では,使えなくなった人間を主が廃棄するんだ,その死体を運んでるのが,あれ,」
「酷い……なんでそんなことができるの?」
「格差社会,富裕層は売られた人間を買い,使い古され捨てられたらゴミになる,売られる人間の多くは,貧民層でな,俺ら見張りは富裕層側ではあるが,人間買ってる程,余裕もないってな,そういう国だ,」
「それって,どうすれば解決できる?王を殺せばいいの?」
男はやれやれと頭をかく,
「門番に聞くか?それ,ここに王はいない,多数決制度って,国民の多数決で決定される,しかし,それを仕切ってるのは貴族側,貧民層の意見は通らねえ,」
フィリアは門の向こうへと歩いていく,
「悪いな,ああいう女なんだ,」
「一つ言い忘れてた,」
フィリアが先に進む中,アンリとルティーナは立ち止まった,
「客人と貧民層に人権はない,多くの売買される人間……つまり商品は,そこから生まれるから気をつけな,」
「助かる情報だ,」
そう言い前を向くと,ルティーナが消えていた,
「ルティーナ!」
「ごめん,私の能力の圏外だった,」
「お前の能力?黒炎か?」
フィリアは話す,
「三秒先の未來が見える,黒炎は急に発現した能力だから,私も分かんない,」
フィリアは片手を握った,
「ルティーナを誰がどこに?許さない!」
「行き場所は分かる,つまり,買取屋があるんだろ?どこかに,」
「アンリ天才!そうだよね!よし、行こう!」
「先に聞き込みだ,場所のな,」
ルティーナは目を覚ました,両手がきつく縛られており,その部屋に倒れていた,
捕まった……どうしよう,フィリアは許してくれたけど,裏切った分の償いってことだよね,
「起きたの,あっそ,」
椅子に座る細身の女,高校生くらいの背丈と,地に着くほど真っ黒な髪,赤目に服も真っ赤なドレスの女,
「ここ,どこ?」
女は立ち上がると,ルティーナを縛るロープを掴み,片手で持ち上げた,
「ここはホテルの一室よ,それにしても,若いわね,これなら,億単位は余裕に超えるかしら?」
売られる,
「冗談よ,私も落ちちゃいないわ,攫った理由は話さないでおくわ,」
「そうなの?」
「ええ,それより,この街はとても危険よ,貴方みたいな高値の女は狙われやすいから,気をつけないとダメだわ,私はメラア,貴方は?」
「ルティーナ,」
女はルティーナを再び地に寝かせた,
「悪いわね,こんなのに巻き込んで,この国の構造は,一人の男を殺すだけで崩れる,」
一方その頃,フィリアとアンリも同じような話をカフェの女店員から訊いていた,髪を片側結んだ銀髪であり,長髪の女,
「その男って誰!そいつのこと,何か教えて!お願い!」
客は誰もいない,
「別にそいつが攫ったとは限らないけど,いいや,私含む誰も知らないけど,メラアって女なら何か知ってるかも,あの大天使との戦いに敗れた最強のチームに所属してた子だし,この国にいるらしいし,」
「伝説の……ありがとう!」
フィリアは店を飛び出ていった,会計を済ませアンリも後を追う,曲がり角,その路地へ足を入れると,フィリアはすぐに二歩下がる,
「どうした?」
「狙われてる,建物の上,」
アンリが見上げると,建物の屋根には何人もの男たちが立っていた,男たちは飛び降り,二人を囲う,そして最後に飛び降りたのは,眼鏡をした金髪の男,
「大物だ,この女は大物だが,性格がこれだと買い手も決まりにくい,実に残念だ,」
「性格って!どういう意味!私の性格に文句あるの!なら絡まないでよ!」
「煩いんだ,富裕層の欲している物は,静かなお人形さん,調教するにも手間が掛かる,しかし,そんな女でも,私は上手く売りさばける,」
「ついでだし,いいや,君たちさ,この国の全てを操ってる!みたいな男知らない?」
男は片手を前にやり,言い放つ,
「舐めた口を,その女を捕らえろ,傷は癒える,暴力も軽くなら許可する,」
「任せてください」
男たちは声を上げ襲いかかる,男がフィリアを捕らえようとすると,その高い蹴りが男を宙へと舞わせた,その瞬間,相手の顔色は変わった,
「能力の使用を許可する,」
「だったら余裕だ!こんな女!」
一人の男は巨大化し,火や氷を纏う男もいた,
「体重三百キロの一撃だ!」
巨大化した男が殴り掛かる,フィリアはその拳を横に避け,思い切り蹴りを食らわせた,
「痛くねえな,まるで赤子の蹴りだ,」
「なら燃えろ!」
黒炎を出そうとするが,出なかった,
「──なんで?」