ただの夢
文才がないので、温かい目で読んでいただけると嬉しいです。
※タイトルは仮です。
東京の喧騒の中、私は看護師として忙しい毎日を送っていた。いつものように電車に揺られ、三納駅へ向かっているときだった。
車内のざわめきの中、不意に目を引く存在が現れた。
黒髪を腰まで伸ばした少女。小学高学年くらいだろうか。白いワンピースを身にまとい、どこかこの現実のものではないような神秘的な雰囲気を放っている。目が合った瞬間、胸がざわついた。彼女の存在は、説明できないほど強烈だった。
電車が三納駅に停車し、私は降りた。驚いたことに、あの少女も同じ駅で降りた。ホームの人波の中、彼女の白い服がひときわ目立っている。
そのときだった。
ホームの床に、突然黒い影が広がった。その影は蠢きながら膨張し、異形の姿を形作る。
そして――巨大なマンモスがそこから現れたのだ。
ホームにいる誰もが凍りつく。だが奇妙なことに、マンモスは人々を無視し、一直線にあの少女へと向かっていく。
「危ない!」
叫んだが、少女はその場から動こうとしない。マンモスの牙が彼女に突き刺さる瞬間を私は目撃した。その牙は少女の体を貫き、血が溢れた。一方で、他の人々や物に触れたマンモスの身体は、まるで霧のようにすり抜けていく。
少女はその場で倒れ、私は無我夢中で駆け寄った。先程まで鉛のように動かなかった体は、まっすぐ彼女に向かっていた。
救急車が到着し、彼女は無事病院に搬送された。
そして奇妙な巡り合わせで、私は彼女の担当看護師になったのだった。
彼女は意識を取り戻したものの、言葉数は少なく、彼女のことについては教えてくれなかった。ただ、静かな瞳で私を見つめ、時折微笑むだけだった。
「……ありがとう」
その一言を聞いたのは、退院の日だった。
だが、怪異はそれで終わりではなかった。彼女が退院した後も、不思議な事件は続いた。
巨大な岩のような甲羅を持つ亀が街に現れ、凶暴な兎が群れを成して走り回り、角があるネズミの大群が住宅街を埋め尽くすように押し寄せた。それらの怪物はいつも私のいる場所に現れ、そして何故か不思議なあの少女の姿を探しているようだった。
ある日、病院の夜勤中、私の担当していた病室に不意に少女が姿を現したかと思えば、焦った様子で告げた。
「逃げて……」
その一言の直後、またしてもあのマンモスが現れた。
マンモスの巨大な影が病室を覆う。私は彼女を守ろうとしたが、まるで体が動かない。
「お願いだから逃げて!」
彼女の叫び声が響く。しかし、マンモスの牙が彼女を、そして次に私を襲った――。
その瞬間、全てが暗転した。
目を覚ますと、自分の部屋だった。額には冷や汗が滲み、息が荒い。
「……夢?」
恐怖が胸に残る。だが、夢の内容は思い出そうとするたび霧のように消えていく。ただ、深い喪失感と不安だけが心に残った。
今日は、私の13歳の誕生日だ。
黒い髪を梳かし、白いワンピースに袖を通す。どうしても外に出たくなった。心の奥で何かが私を突き動かす。
家を出てぶらぶらと街を歩きながら、ふとショーウィンドウに映った自分の姿に目を留める。
そこには、黒髪を揺らす白い服の少女――まるで、夢の中の少女そのものが映っていた。
私は目を逸らし、前を向いて歩き出す。この日から何かが始まる予感がしていた。
読んでいただきありがとうございました。