008 『朝に』
第一楽章『伽藍洞、堕ちた執行者』これより開幕します。
窓から入ってくる陽光による刺激で、深い眠りついていた意識が浮上する。
重い瞼を開くと、もうすっかりと見慣れてしまった自分の部屋の天井が見える。
(今日でこの天井とも、しばらくはお別れかな)
と思いながらも体を起こし、凝り固まった体をほぐすように、両手を前に精一杯伸ばす。
部屋に置かれている時計を見ると時刻は6時を指している。
まだまだ予定まで時間はある。そう思いながらも前世の軍人としての経験と、騎士見習いとしての習慣で準備を始めてしまう。
支給された無駄に装飾されている制服に袖を通し、今着ている未知の服について考える
(制服は軍人だけでいいってのに、これを提案した勇者はぶん殴る必要があるかもね……)
はぁとため息つきながらも、前世でも今世でも履かなかった「スカート」という分類の装備品を装着する。
(うわなんだこれ…スース―するんだけど。まあこういうものか…)
そういうことにしておこうと、半ばあきらめの境地に達しつつも、これも着ときなさい!とOBに言われたのでタイツも履いておく。
着替えは終わったので鏡の前で寝癖などがないか確認する。
「よしっ!」
無いことを確認し終えると、コンコンと入り口を叩く音が聞こえた後、聞きなじみのある声が聞こえてくる。
「おーい起きてるか―?せっかくだから俺久しぶりにここの朝飯食いたいんだけどー」
「起きてるから、朝から大声出さないで。頭に響くでしょ」
と注意すると
「ああ、すまんすまん」
と全く申し訳なく思ってなそうな声が聞こえてくる。その答えに
(あとで殴ろう、そうしよう)
と決意を固めながらも扉をあける。
扉を開けると、今着ている制服とズボンという違いはあるものの、似通ったもの着ている淡い赤髪の青年がいた。
「おっ、制服似合ってんじゃーん。お前がスカート着てるとすっげぇ違和感あるけど!」
「大きい声を出した罪と余計なことを言った罪で腹パン2回ね?」
「情状酌量の余地は?」
「ない」
素早く彼の懐に入ると、容赦なく溝内に2発打ちこむ
「無駄に身体強化使うなよ…ぐはっ」
余程効いたのか、うめき声をあげながらバタりと倒れる彼。
私は、はぁーと先ほどより大きなため息を吐き、頭を手に抑え呆れながらも、床に転がっている彼に話しかける。
「いい加減デリカシーってものを持ったら?ルーク」
彼は私の声に反応するようにピクッと体を震わせると、勢いよく立ち上がりこちらに向かってはにかむ。
「いやお前にしかこんなことはしないぞ?」
「私にもデリカシーを活用してもらえる??」
「それは無理」
「ぶっ飛ばすよ?」
はっはっはっといつかの私のように誤魔化すルークに、育て方を間違えたと頭を抱える。
「お姉さんルークがそんな子に育って悲しいよ……」
「いやアリスに育てられた記憶はないが。というか!早く朝飯食べに行こうぜ!アリスのせいでもうお腹が限界なんだ!」
「余計なことを言ったのはルークでしょ」
と私が毒づくと、彼は誤魔化すように大きな声で言う。
「と・に・か・く!早く朝飯食いに行こうそうしよう!」
「また大きな声だして…」
一方的にそう告げると、彼は瞬く間に走っていてしまった。
(いや君も使ってんじゃん)
と心の中で思ってしまうが、先ほどのルークの様子を思い出しくすりと笑いが漏れてしまう。
(せっかく迎えに来てくれたんだから、早くいってあげないとね。)
そう結論付けると私はルークのように走ることはせず、でも少し足早に歩きだした。
今日は、入学式だ。