006 『異常事態』
遺跡内部にある地下への階段を抜け、大広間に入るとそこは、とても見覚えがある景色が広がっていた。
「これは……?」
「不思議だよな、見つかってからずっとこの状態らしいぜ?」
思わず驚きの声も漏らす私に、ルークが何かを答えるが、その言葉を認識することは出来なかった。
(敵国の宙艦がなんでこんなところに……)
それは、前世で見た宙艦に非常に酷似しているからだった。
(なんでこれがこの世界に?まさか)
―――ここはあの世界の未来?
そこまで考えて「ありえない」と私は結論を出す。
前世で魔術なんてものはなかったし、ナノマシンで再現はできるって構想もあったが、あれは実現するには技術力が足りないという結論が出たからである。
(仮に未来だとして、そうなると魔術がナノマシンだというなら、あの計画が実行されたってことになる)
「もしそうだとしたら、この世界は―――」
そう、嫌な予想を口にしようとしたその時。
「おい大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「え、ああうん。大丈夫大丈夫」
心配してきたルークの顔が目の前に現れる。誤魔化せる気はしないが一応大丈夫と伝えておく。
「もしかしてお前、トイレでも我慢してるんじゃ……」
「あとで脳天にチョップね?」
「嘘だろ!?」
戯言を言うルークにはあとで成敗することが決定した瞬間であった。
何時もの調子で抗議の声をあげるルークを見つめながら、アリスはほっと息を吐く。
(まあ、不安な気持ちは晴れたかな)
と、心の中で少しだけ感謝しながら、
「よしっ」
私は小さく呟いて、開かれていく上に上がっていく壁から、遺跡に足を踏み入れた。
******
掃討は順調は進んだ。
現在は全5層あるうちの2層にいる。一層では何故か敵が少なかったため、スムーズに進むことができた。
なお、私達騎士見習い組は2層までしか行くことを許可されていない。理由は2層以降は絶対に安全という保障がないらしい。
因みにこの遺跡に出現する魔物はゴーレムなどが大半である。察してると思うがロボである。資料で調べていた私は全力で目をそらした。
ということで、私としてはこのまま歩く歩く大会で終わりそうで怖いので、さっさと魔物達には出てきてほしいなあと思いつつ、黙々と進んでく。
そんことを思っていたのが悪かったのか、突如ゴゴゴと遺跡内が揺れ始め警報音が鳴り始めた。
『警告、異常事態が発生いたしました。艦内にいる皆様は速やかに脱出してください。繰り返します。警告、異常事態が……』
(なんだなんだ?何が起きているんだ?)
私が困惑していると、騎士達が団長に指示を仰ぎ始める
「団長どうしますか?」
「原因を調査しますか?」
「団長、俺はひいたほうがいいと思う、見習い共もいるしな」
ノイン団長は少しの考えるようなぞぶりをしたあと、騎士達に指示を出し始める。
「第1分隊、第2分隊は僕についてきてくれ、第三分隊は騎士見習いたちを地上に送ったあとに合流し問題に対処する。いいな?」
「「「「「了解です!」」」」」
「じゃあ、行こうか」
そういうと団長たちは下層へ潜っていった。
「俺らもいくぞ。しっかりついてこいよお前ら、迷子になったら承知しねえからな」
第3部隊の隊長がそういうと各々が頷き、了解の意を伝える。
それを確認すると彼は元来た道を先導し始める。私たちは日頃の訓練通りしっかりと隊列を組み、私とルークは一番後方に並び、更にその後ろから騎士二人が最後尾の警戒役として並んだ。
毎回思うが、何故ルークがいつも隣なのだろう?何故か高笑いしてるノイン団長が頭に浮かんだ気がする。とりあえずまたお菓子はパクろう。貴重だからね!
私は心中で邪念を浮かべつつ、今は少しでも周りを警戒すべき状況だと思い出し、先ほど浮かべていた邪念を頭の片隅に追いやり目の前のことに集中する。
置いて行かれないように気を付けながら、今起こっていることについて考える。
(それにしてもなんで警報が?私たちが入ってきたことで警報が?)
「いや違う」と思い直す。何故なら、毎回のように掃討のため奥まで行っているはずだからだ。内部に侵入しただけで鳴っているならば、今までが鳴らないのはおかしい。
(しかも討ち漏らしが無いよう隅々まで掃討してるらしいし)
もしかしたら私が原因かとも考えるが、肉体はそもそも別物だし、魂を判別する装置が開発されたとも思えない。というかそこまで高度な装置は確実に要らない。
これじゃないなと今組み立てた予想を崩し、他に何かないか考える。
(アナウンスでは《異常事態》と言っていた)
宇宙船内で避難を指示されるほどの異常事態と言えば、重要なインフラの破損、何らかの細菌によるパンデミック。もしくは、危険な生物の暴走だろう。
(だけどこれに反応するならばもっと具体的に警告するのが当たり前)
これも違うあれも違うと頭を抱える。
(しかも、この右腕がぞわぞわする感覚……)
嫌な予感がする。
こういう感は不思議と当たるもので。
突如、背後から何かがぶち破られるような轟音と共に、前世では聞きなれた駆動音が聞こえてくる。
即座に背後見るとそこには、かつて某敵国で見た、金属製のロボットがいた。
そいつは右手に、見覚えのあるものを持っていた。
(プラズマグレネードって、それはまずいかも!)
プラズマグレネード。それは端的に言えば爆発範囲内の全てをプラズマになる火力で消し飛ばす極悪兵器である。無論開発したのは私である。
―――あんなのが直撃したら、下手したら全滅する……!!
直後、かなりの速度で飛んでくるグレネード。
それを反射的に私達を庇うように防ごうとする騎士達。
私は咄嗟に全員に伝わるように、大声で叫んでいた。
「全員、目と耳を塞いで―――」
直後、とんでもない爆音と光によって私の五感が失われる。
「アリ―――」
最後に聞いた声が幻聴かどうかは、私には分からなかった。
ロボの見た目は雰囲気OWのあいつ