017 『フォールンド侯爵家』
「まあ一旦カーラのことは放置するとして」
「わたくしの扱いが雑な気がしますわ」
カーラが何か言っている気がするが華麗に聞き流すことにし、話を続けることに専念する。私は挙動不審気味に目線を彷徨わせ下手な口笛モドキをしている黒髪黒目の男を見る。
「ラインハルト、まさか君も覚えてないってこはないよね…?」
「い、いや覚えてるけど…?」
怪訝そうな表情を浮かべ疑っていますという念を込めた視線を送ると、観念したのかがっくりと肩を落とし申し訳なさそうな声色で答えてくる。
「その考え事をしていたらいつの間にか先生の話が終わっちゃってて…」
「で?」
「申し訳ございませんでしたーーー!!!」
そういいながら私の目の前に向かってスライディング土下座をするラインハルト。私はその様子をみてこの国の未来は大丈夫かと本気で心配する。
現在進行形で周りから呆れたと言わんばかりの視線を浴びている彼は《ラインハルト・フォールンド》。フォールンド侯爵家の嫡男だ。そう侯爵家だ。侯爵家の次期当主が私の前で土下座しているのだ。
(改めて思い直してみるととんでもない光景だね)
ともう見慣れしてしまった光景を眺める。何故見慣れてしまったのかというと、このようなことがあったのだ。
あれは確か殿下から逃げるため生徒会室から逃げ出した後のことだ。
私は初日から授業に遅れるわけにはいかないと廊下を走って移動していたのだ。今となっては急いでいるとはいえ迂闊だった。
授業には間に合いそうだと安心したのがいけなかった。曲がり角に差し掛かった瞬間、体に強い衝撃が走り弾き飛ばされる。
(やばい周り見てなかった)
私は素早く立ち上がり、倒れている人影が見えたので駆け寄る。
「あのぶつかってすみません。大丈」
「すみませんてしたぁ!!!」
私が大丈夫か心配の声をかけ終わるより先に相手が土下座をして謝ってきたのだ。そうぶつかった彼こそがラインハルトだったのだ。
それから色々あり、何度かクラスの全員の前で土下座をしたりとラインハルトが軽々と土下座をするものだから、全員が慣れてしまったというわけだ。
このまましゃ話が進まなくなるのでラインハルトを起こすことにする
「ほらさっさと立ち上がりなって、ラインハルトは頭を下げすぎなんだよ」
「でも俺が聞いてなかったのが悪いし」
「頭を地につけるほどの話ではないでしょ」
「そうですわよラインハルト。わたくしを見習いなさい!」
わざとらしく胸を張るカーラ。イラっとしたので圧をかける。
「カーラはもっと反省しようか?」
「…ごめんなさいですわ」
「よろしい」
しょんぼりとした感じて顔を下に向けたのを見て、おそらくは反省してるようなのでよしとする。
チラッとリーファとアルの方を見ると、リーファは頭を抱えアルはまたまた乾いた笑いを溢している。様子は見るに二人は大丈夫そうなので説明を聞いてなかったお貴族二人組に説明することにする