012 『殿下の圧迫面接』
現在12話と13話を統合した影響で13話が消えています、物語の進行には問題ありませんが日常パートを挟もうと思っているので追加した場合告知致します。
(とりあえず、あいつに対しての怒りは収まったのでいいとして)
天井から引き抜かれ、気絶しているらしいなんたら子爵にポージョンをかけたり、治療魔術をかけている先生方を観察してみる。
一瞬だけ見えたが、私が蹴り上げた腹の部分、着ていた鎧の胴の部分が砕け散っていた。おそらく鎧がなかったら今頃豚君のふくよかな腹はなかったかもしれない。
なお、鎧がなかった場合腹だけではなくそのまま上半身と下半身が泣き別れになることは言うまでもない。
だが今の問題はそこではない。
―――これ、傍から見たら散々煽り倒した挙句、一撃で沈めるっていう最悪な奴では?
そう、決闘とは基本的には騎士道精神に則って行うものなので、いくらなでもありとは言え煽り倒した後あんなひどい倒し方だ。どう考えても不味い。
どうしようかと考えている見るが、如何せん何も思いつかない。
「クレジー嬢、王大志殿下がお呼びです」
いつの間にか近づいてきた人物はどうやら私に用があるらしく、こちらへ話しかけてきた。
(王族から直々に呼び出し……嫌な予感しかしないな)
流石に王族の命令に背く気はまだないので大人しく従うことにする。
訓練所を後にし、校舎へと入り特に会話らしい会話もなくしばらく歩くと、『生徒会室』というプレートが付いている部屋の前についた。
彼の役目はそこまでだったらしく
「では」
というと、足早に去って行ってしまった。
壁に書かれている『生徒会室』と見つめながら私は遠い目になる。
(ルーク。なんかで君たちの部屋はジャックされてるんだ)
鍵の管理が甘いんじゃないかと文句をいいながら、私は意を決するとコンコンと扉をノックする。する中から
「入ってこい」
という声が聞こえたので遠慮なく入ることにする。
「失礼します」
扉を開くと、そこにはいかにも生徒会という感じの部屋になっており、『コ』の字に机が並べられており、殿下は一番奥の席に不適な笑顔を浮かべながらふんぞり返っていた。
私は扉を閉め、堂々と扉の前を陣取り殿下に質問を投げかける。
「殿下、失礼ながら私がここに呼ばれた理由をお聞きしても?」
私が訪ねると殿下は大げさに肩をすくめながら答える。
「何、決闘であれだけ派手に貴族を吹っ飛ばした人物がどんなやつなのか気になっただけだ」
といっているがどう見てもそんなこと思って無そうである。目が完全に何か企んでるときのやつだ、間違いない。
私はこういうことが嫌いなので、腹の探り合いなどせず単刀直入に聞くことにする。
「殿下、私は貴族ではないので腹の探り合いなどできません。なので聞きますが、私に何かいいたいことでもあるのんですか?」
私がそういうと、殿下は少し驚いたように目を見開くがすぐに真顔に戻った。
「ああ、実は貴様に聞きたいことがあったのだ」
(殿下から私に聞きたいこと?全く心当たりがないけど)
何かあったかな?と頭を捻るが、やはり心当たりはなかった。
私が押し黙っていると、それを了承と認識したのか殿下はそのまま言葉を続けた。
「貴様、カーディア遺跡で何を手に入れた?」
予想外の方向から質問が飛んできたことにより思考が停止する。だが、今ここで悟られたら真面目にやばいので表面上は平静を装う。
(王族の権力で圧を掛けるなんて卑怯だぞ殿下……しかも心当たりがありすぎるせいで反論できないのが嫌らしい)
私は頭をかつてないほど回して考える。
殿下はあの言い回し的に私が何かを手に入れたのを確信しているようだ。つまり、無暗に白を切ると自分の首が飛ぶ可能性があるということだ。
―――これだから権力者はめんどくさいんだ
そう心の中で愚痴りがらもどうやって切り抜かれるかを考える
そして、もっとも無難な解決案は一つと結論付ける。
(今、あの船について知られるのはまずい。なら代わりにアレを見せよう)
―――できればこれも見せたくないけど
どうか納得してくれますように―――と願いながらアリスは口を開く。
「ええ、手に入れましたよ。これを」
アリスは懐からあるものを取り出した。
「……これは?」
「古代の遺産ですよ。あくまで私の予想ですけど」
アーティファクト。それはいわゆる神話の時代と言われる遥か昔の時代の遺産である。その種類は多岐に渡るが、今回出したのは小銃と呼ばれるものだ。
勿論本当に拾ったわけではなく、相手からは見えないように召喚しただけだが。
殿下の顔を見てみると、先ほどとは違い真顔でこちらを見つめていた。
しばらく待っていると、突然重々しい雰囲気から打って変わり、少しばかり尊大な雰囲気を纏いながら殿下は再び口を開いた。
「単刀直入に聞くぞ、貴様も《勇者》だな」
「は?」
―――《勇者》?私が?あの?何言ってるんだ?
更なる予想外からの質問に思わず呆然とするアリス。
「まだとぼける気か?流石にお遊びがすぎるぞ」
私の反応に痺れを切らしたのか、殿下はさっきまでの少しだけ偉そうなだけの王子から、まるで歴戦の王者のような雰囲気を纏い始めた。
だが私はそんな殿下の変化に気づくこともなく、心の中で整理をするのに必死だった。
(は?《勇者》?そんなものになった記憶なんてないけど?というか「君も」って言わなかったかこの王太子殿下。それって国家機密とかそういうレベルじゃないの?バカなの?)
とんでもなく失礼なことを私が考えてるとは知らず、殿下はそのまま話し続ける。
「それを持ってるということはは、《勇者》として認められたのだろう?」
「いえ違いますが」
私がそういうとやれやれといった様子で息を大きく吐き、私の左耳辺りを指さし問い詰めてくる。
「誤魔化さなくてもいい。それ貴様の耳につけているそれもアーティファクトであろう?今は髪が邪魔で見えないが、さっきの決闘の時に見えていたぞ」
「……?アーティファクトと《勇者》に関係性があるのですか?」
私がそういうと、殿下の顔に張り付いていた不適な笑みが凍った。そんな殿下は無視し私はそのまま疑問を投げかける。
「私の持っている知識では、《勇者》と呼ばれたもの達がアーティファクトを使うことはありましたが、全てがそうではなかったはずです。それを踏まえた上で言いますが、何故私が《勇者》だと確信したのですか?」
私の反応が考えていたものとは違ったからか明らかにうろたえている様子の殿下。
私の方はというと内心でほくそえんでいた。
(よし、論点を『私が《勇者》か否か』から『《勇者》と確証した理由』にすり替えることができた。これで私が去れば、《勇者》かどうかは有耶無耶にできるはず)
意味も分からず《勇者》になって祭り上げられてたまるかと考えるアリス。
私は未だ笑顔のまま固まっている殿下と一刻でも早く離れるべく、話を切り上げにく。
「では殿下。授業初日から遅れるわけには行きませんので。失礼いたします」
「……!?貴様!まだ話は終わっていな」
扉を閉じ、全力で教室に向かって走る。出ていくときに何か聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
教室に向かって走りながらさっき起きたことについて考える。
(殿下は何故あんな質問を?アーティファクトは確かに珍しいけど、持っているのは別に私だけではないはず)
―――もしかしてこのインカムが特別なのか?
左耳につけているそれを触りながら考えるが、無駄だなと諦める。
(圧倒的に情報が足りない、あと別に興味もないしね。殿下に近づかなきゃ大丈夫でしょ。あんな話他人がいる場所でできるわけないしね)
そう考えながらも、アリスは急ぎ足で自分の教室に向かって歩き続ける。
この時私は軽く考えていたのだ。《勇者》というものがいかにこの世界にとって重要なのかを。
私はこのあと、身を以って知ることになる。
殿下は脳味噌筋肉でできてます