009 『面倒な決闘騒ぎ』 上
現在、私はここフィード王立学院の訓練所にて、とても面倒な相手に絡まれていた。
(ああ、どうしてこうなった)
「おい、聞いているのか!」
私は目の前の現実がせいで、とても憂鬱な気持ちになっていた。
はぁとため息を漏らした私の様子が相手の気に障ったのか、鬼のような形相ででこちらを睨みつけている。
「貴様!僕はあのボーン子爵家の次期当主だぞ!平民風情が僕を無視するというのか!」
何か言っている気がするが、生憎私は今をどうやって切り抜けるか考えるのに必死なんだ。
(そうだ、こんなことになった理由が分かればこの状況を打開できるんじゃないか?)
私はそう結論づけると、私はここに至るまでの経緯を思い返し始めた。
******
ルークが食堂で料理を大量に頼んだせいで食べるのに思いのほか時間がかかってしまい、危うく入学式から遅刻するという事態になるというハプニングが起きたが、ギリギリ間に合った。
唐突に魔物が乱入したり、謎のロボットに爆破されたりするなってことはなく、つつがなく式は進んで行く。
(まああれも本当に爆破したわけではないんらしいけど、みんな生きてたし)
私は前世でもあった学院長のクソ長いスピーチを聞き流しながら思い出す。
(でも驚いたわ、意味ありげに呼んだくせになんとなく波長が似てたから呼んだだけっていうね)
そうあの声の主は、
『私はラジー、当艦の管理AIを任されています』
と名乗ったのだ、さらにどうしてここに呼んだのか聞くと
『目覚めたらマスターの魔力の反応をキャッチしたので、呼んでみました♪』
AIなのに感情豊かだなとどうでもいい思考がよぎりながらも、特大の意味不明情報を投下され頭がバグったのを覚えている。
そのあといろいろ質問したが、ほとんど
『機密情報です♪』
と言われた、私はコンソールを思い切り殴った。手が痛くなった。
「おのれラジーこれがお前のやり方か……」
『マスター大丈夫ですか!これはマスターの自業自得ですよ!?』
「このAI嫌い」
ひと悶着があったが聞き出せたのは、この宇宙船は少なくとも10万年以上前に製造されたらしい。ということだけだった。
そのあといろいろあって地上に戻され、ルークに泣かれた。
(全く攫い方が雑なんだよ……)
因みにあのプラズマグレネードはやっぱり偽物で、音と光だけを再現したものだったらしい。私が負った傷は落下時に受けたダメージだった。やはり雑。
と私が暇すぎて過去のことを思い出していると、学院長のスピーチが終わり次は生徒会長が始まるらしい。
―――そういえば生徒会長って誰なんだ?
なんだか嫌な予感がする。
こういう予感はあたるもので、舞台裏から出てきたのはどうみてもルークだった。
私の視線気づいたのか、一瞬だけこちらみてにやりと笑ってすぐに顔を戻すルーク。
何故だか周りの女子たちのルークに対する視線が妙に熱い気がする。
(この学院大丈夫かな)
と学院側に対してとても失礼なことを考えながらも、壇上で鋭い顔でスピーチしているルークを見ながら考える。
(今度会ったら脳天にチョップ叩きこもうかな、身体強化込みで)
と真顔で考えながらルークのスピーチも聞きながす。
そうしているとルークのスピーチも終わり、新入生代表挨拶が始まる。金髪に碧眼、どうやら代表はこの国の王太子殿下のようだ。名前は忘れた。
そのあとは特に何も印象に残ることはなく式は終わりを迎えた。
だがそのあとが問題だった。
******
式が終わり時刻は17時、寮に戻るには早いので学院を歩き回っていた時だ。
突然中庭ほうから怒鳴り声が聞こえたので、気になったので行ってみたのだ。
曲がり角の先から声が聞こえてくる。私はちらっと壁から顔をだし様子をみると、小太りの男と小柄な少女がいた。
「平民上がりの男爵の娘風情が!ここは貴様のようなものがいていい場所ではないのだ!!」
「ご、ごめんなさっ」
「僕は喋っていいなどいっていない!!」
(うわ面倒ごとだ、関わらんとこ)
と即座に逃げようとしたのだが、次に放たれた一言で思わず固まってしまった。
「全く、平民を入学させるとは学院も落ちたな。それにあの生徒会長もだ。あいつも平民の出らしいではないか、あのようなゴミごときにとても務まるとは……」
「おい豚」
私はいつの間にか目の前の豚に歩みながら語りかけていた。
豚はこちらを見ると怒りに染まった顔でこちらを睨みつけてくる。
「貴様、なんだその口の聞き方は!!僕はホーン子爵家の……」
「おい豚、私の友達を馬鹿にしたね?」
私はできるだけ平静を装いながら相手を煽る。
「君さ、ルークを馬鹿にしてたけどさ。お前みたいにぶくぶく太ったやつがルークみたいに動けるとは思えないけど。あと、ルークを馬鹿にしていいのは私だけなんだけど、どういうことかな?」
嘲るような笑みでヤツを見る私。それがイラっと来たのか、ヤツは鼻息を荒くしてさらに睨みつけてくる。
(このまま殴りかかってきてくれれば、正当防衛で遠慮なく殴れるんだけど)
と冷静な思考のもとそう考えていると、思わぬ横やりが入ってきた。
「では、決闘でその真偽を確かめようではないか」
声が聞こえたほうを振り返るとそこには見覚えのある顔があった。
(王太子殿下?なんでこんなところに…)
そこまで考えて気づく、いつの間にか周りの視線が増えていることに。
ちらりと王太子殿下に視線を戻すと、胡散臭い暗黒の微笑みを浮かべていた。
―――面倒なことになった
湿度高いなこの主人公……