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第二十三話 異変

「なんだこれ……」


 パーフェン領から自領、クライエ領に入りしばらくして。

 御者が騒ぐのでエリザと二人で外へ出てみた。

 ちなみにマリーは()()()気持ち悪くなってしまったようなので中に待機だ。

 多分馬車酔いしてしまったんだろうなぁ。

 あまり馬車の旅に慣れてなかった様子だし。

 エリザに言ったら「あのくらいでへこたれるなんて、まだまだですね」なって言ってたけど。

 やっぱり騎士団長ともなれば厳しさも必要なのかな。

 マリーは騎士ではないんだけどね。

 話は戻って、目の前の光景。

 一言で表すなら惨状が広がっている。

 地面の至る所が隆起し、木は倒れ、石畳みは崩れてしまっている。

 建物の損壊が少ないのがまだ救いだ。

 そして、見る限り一番酷いのは屋敷の周りだった。


「うーん。強力な魔物が現れたのかなぁ? ランディと私がいなかったとはいえ、これは騎士団のみんなに後でお説教だなぁ」

「後でお説教するためにも、まずは事態の確認と、対処に向かった方がいいんじゃない? 僕たちはいいからさ。エリザなら、馬車より走った方が早いでしょ?」

「え!? その間のお兄ちゃんの護衛は……いるわけないか。了解! じゃあ、お兄ちゃん。行ってくるね!」

「気を付けてね」

「……!! お兄ちゃんが心配の声をかけるなんて! これは、ひっさびさのキッツイ訓練なんだね? 気合い入れなきゃ!」


 相変わらず元気なエリザを見送ると、馬車の中でうずくまっているマリーに声をかける。

 相当具合が悪そうだ。

 うんうん、酔いってのは凄く苦しいからね。


「大丈夫? どうやら大変なことになってそうだ。屋敷にも戻れそうにないから、このまま別のところへ向かうからね」

「す……みません……そんな状態になってるなんて想像もつかず……」

「しょうがないね。酔っちゃった時はゆっくり休むしかないんだから」


 御者に目的地を告げると、真剣な表情で一度だけ頷いた。

 これから向かうのは緊急避難先。

 屋敷などで何かあった際に逃げ込む第二の拠点。

 知っている者は屋敷で働いている者でも限られる。

 パメラはもちろん知っているから、そこに行けば何か状況を知ることができるんじゃないかな。


 ☆☆☆


 数刻前――


「ここ数日、やたらと虫が目に付きますね……アーク様が戻られる前に、なんとかしないと」


 パメラは屋敷を歩きながらそうぼやいた。

 アークがパーフェン領へ向かってからというもの、明らかに手が空き暇を持て余すようになったので、屋敷内を散策する時間が増えた。

 そこで見付けた、小さな半球状の赤い虫。

 何故だか屋敷の色んなところで同じ虫を見つける。

 パメラも流石にいく先々で見つける赤い虫が全く同じものだとは思っていない。

 同種の虫の細かな違いなど分かるわけもなく、同じような虫が何匹も入り込んだに違いなかった。


「近くに巣でもできたかしら。こういうのにはマリーが詳しいのだけれど。アーク様が連れて行ってしまったのよねぇ」


 どうにかできないかと思案しながら屋敷を歩いていると、向こうからボロ雑巾のような格好をした男が近付いて来るのが見えた。

 騎士のバンプだ。

 以前アークと一緒にモルメオン鉱山がまだ廃坑と呼ばれていた時に調査に向かい、魔鉱石を見つけた人物だ。

 騎士は全員周辺の警護と、魔物の駆除を担っているから、危険が伴うのは間違いない。

 とはいえ、ここまでボロボロになるような危険な魔物が出現したという話も聞かない。

 アークがいてもいなくても、屋敷内外で発生した情報は必ずパメラの耳に入るように根回しを進めている。

 そのくらいのことをしないと、アークについていくのは困難だと結論づけたためだ。

 少なくとも魔物の出現情報が漏れるようなことはないはずだ。


「あなた。バンプさん。ちょっとお聞きしたいことがあるのだけど」

「なんだ? こちとら疲れて死にそうなんだ。手短に頼む」

「その疲れて死にそうな理由を尋ねたいの。何か危険な魔物でも出たのかしら? 見たところ……目立った怪我はないようだけれど」

「いや……いつも通りじゃないか? 俺のところにも今まで以上の魔物が出たって連絡はなかったぞ」

「それじゃあ何故?」

「ウルフだよ……」

「え?」

「シルバーウルフと毎日鬼ごっこしてるんだ。エリザ様の命令でな。この前までは一匹だけだったが、数日前から二匹になった。正直、しんど過ぎて根を上げたいんだが、伝えようにもそのエリザ様がいねぇ」

「そ……そう。騎士団の訓練って独特なのね……」

「何故か知らないが俺だけだ。もういいか? 仮眠とったらまた戻らなくちゃいけないんだ」

「え、ええ。お大事に……」


 どうやらバンプはエリザから特別な訓練を課せられているようだ。

 シルバーウルフ自体もけして放置していい魔物ではないが、鬼ごっこと言えるくらいならば、大丈夫なのだろう。

 しかし、エリザから直々に特別訓練を受けるバンプという騎士は、今後も覚えておいて損はなさそうだ。

 そうパメラが思った時、目の前を例の赤い虫が一匹横切った。

 後ろを歩くバンプが明らかに苛立ったような声をあげる。


「あぁ!? なんだこの虫! テメェ! あっち行け! そしてもう二度と近付いてくんな!」


 バンプは虫が苦手だった。

 ただそれだけの理由だったが、その()は、違う受け取り方をしたようだ。


『少し時間をかけ過ぎたが……どうやらお前ら二人だけのようだな』


 羽音がまるで人間の声のように聞こえた。

 パメラとバンプははお互いに振り返り、首を横に振った後、慌てて周囲を見渡す。

 その瞬間。

 屋敷の床が二つに割れた。


「うわぁ!? おい! 動くなよ!? 下手に動いたら落とすからな!?」


 咄嗟にパメラを担ぎ、割れた床から遠ざかる。

 地面から何かが這い上がって来ているのだ。

 隆起した地面に押し出されるように亀裂は更に増えていく。

 あのまま立っていたら、バンプはともかく、パメラは一貫の終わりだっただろう。


「あ、あれは……」

「おいおい……冗談じゃねぇぞ?」


 隆起した土を剥ぎ落としながらソレは顔を出した。

 顔の一部と言った方が正しいかもしれない。

 先端には円形状に内側を向いて何列も並んだ鋭く大きな牙。

 その口とほぼ同径の恐ろしく長い体を持つ魔物。

 大きさによってビッグやヒュージュなど名前が異なるソレは、明らかに一般的な名称で示せる大きさの範疇を逸脱していた。

 屋敷喰い(グレイト・ワーム)

 後にそう名付けられたソレは、明らかにパメラとバンプを標的に定めていた。

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