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第十九話 真面目に話しただけなのに

「よく来ましたね。んふふ。要件を端的に言いましょうね。魔鉱石の鉱床を私に渡してください」


 入ってきて早々、寂しくなった頭頂を横から持ってきた髪で隠すような髪型をした男性が、何故か一人で笑いながら言ってきた。

 きっとこっちがパーフェン伯爵なんだろうな。

 エリザからの前情報だと、どっちかっていうともう一人の方かと思ったけど。

 先に声をかけなくて良かったね。

 スキンヘッドの恰幅のいい男性は執事か何かかな?

 パーフェン伯爵がソファに腰掛け、その後ろに執事が立つ。

 僕とエリザも向かい合うように腰掛け、マリーは同じように二人の後ろに立った状態だ。

 一瞬だけ後ろを向き、マリーに目配せをする。

 マリーには、可能な限りの見聞きしたことを頭の中に残すようにしてもらわないとね。

 少なくともクライエ家が不利になるような事態にならないように、入念に記憶してもらおう。

 僕の失言はちゃんと記録から消してもらうことも、忘れないようにしないと。


「適当に座れと言いいましたがね。んふふ。まさか護衛が主人と並んで座るとは思いませんでしたよ。主人としての畏怖の念がたらないんじゃないんですかね?」

「え? いや。エリザは僕の妹だからね」


 確かにただの護衛が主人の隣に座るのは本来あり得ない。

 しかし、エリザは僕の妹であり、クライエ家の令嬢だ。

 僕の隣に座ったとしても、何もおかしなことはない。

 なんだったら僕が後ろに立って、エリザ一人でソファに座ってもいいんじゃないかな。

 足が疲れるからしないけど。

 パーフェン伯爵は、エリザを見て口角を上げた。

 なんだかちょっと気持ち悪い。


「おお。なるほど。おほ。そんな格好をしているから気が付きかせんでしたがね。クライエ子爵のご令嬢ですか。んふっ。ああ。もうクライエ子爵は父親ではなかったでしたね。んふふ。大きくなりましたね。身間違えましたよ。もう一人、ご子息がいたはずでしたが、そっちはきてないのですかね?」

「ランディは私用があって出かけてるんだ。あ、そうだ。魔鉱石の件は丁重にお断りするよ。だって、僕たちにメリットがないだろう?」

「メリットがない? そんなことはありませんよ? ぬふっ。流石にご存知だと思いますが、魔鉱石は魔物を呼び寄せます。その管理が必要です。それをわざわざこちらが担ってやろうと言っているんですよ。んふふ。悪い話じゃないでしょう?」

「管理はこのエリザがきちんとやってくれるさ。それに、あの廃坑はクライエ家にとって思い出深い場所でね。おいそれと他人に渡していいようなものじゃないんだ」

「ほ、ほう? 若造がなかなか生意気言うじゃないですか」


 あれ? なんかちょっと怒ってる?

 後ろをチラリと見ると、マリーは驚いたような顔をしていた。

 まずい。

 何か失言でもしたかな?

 そうだ。

 話題を変えよう。


「そういえば、話が変わるけれど。ここに来る途中、領地内で山賊に襲われそうになったんだ。ああ、大丈夫。全員捕まえて、町の衛兵に引き渡したから。面倒をかけることになると思うけれど、よろしく頼むよ」

「ぐっ……それは災難でしたね。ところで、何故私の領地に賊を引き渡したりしたんです?」

「え? あ、ああ。ほら。襲われたのがパーフェン伯爵の領地内だったんだよ。本当に境界ギリギリだったんだけどね。ということは、そっちの管理責任ってことだよね? ピンときたね。そっちに引き渡した方がいいって」

「んぐぐっ! ま、まぁ、それならばそうでしょう。無事で良かったですね。さて、しょうもない賊の話はこれくらいにしましょうかね」


 あれれ。

 山賊に襲われた話はお気に召さなかったようだ。

 どうしよう。

 そうだ!

 お土産だ。

 持ってきたお土産を渡して機嫌を取ろう。


「そういえば。お土産を持ってきたんだ。とても素敵な品なんだよ。気に入ってもらえると嬉しいな」

「ぐぬぬ! 不愉快です! 若造がっ! 調子に乗りおって! 一度くらい退けたからと、いい気になってるんじゃないですよ!!」

「え……あれ? あ! これって渡すと、まずかったんだっけ。ミスリルウルフすら狩ることできないって意味だった」

「お兄ちゃん……流石にさっきから相手を煽りすぎだと思うの……」

「あなたたちが私を舐めているということはようく分かりました。帰ってください。せいぜい帰りの道に気を付けることですな!」

「あ、もう帰っていいの? ただ……こういうのもなんだけど、こんな短い時間の話だけが用事だったんなら、わざわざ呼び出さないでほしいなぁ。ほら、移動時間もかかる訳だし」

「帰りなさいと言っているのです!!」


 すごい剣幕のパーフェン伯爵が怖かったので、言われた通りさっさと帰ることにしょう。

 あ、でも、これは言っておいた方がいいかな。


「そういえば、そこの観葉植物に虫がいたよ。もう窓から逃したけどさ。使用人にもうちょっと気を遣った方がいいって伝えておいてよ」

「帰れ!!」


 相当怒らせちゃったみたいだ。

 顔なんか真っ赤で、まるで茹でた海の悪魔(タコ)みたいだ。

 そういえば、ずっと無言で微動だにしてなかったスキンヘッドの人、虫の話をしたら一瞬だけ表情が変わってたな。

 もしかして……虫が苦手なのかな。

 それなら先に見つけて逃してあげて良かったね。

 話している間に部屋の中を飛び回る可能性だってあったから。

 それにしてもあんなにいかつい見た目してるのに、虫が怖いだなんて、ちょっと面白いな。

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