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一日目 顔合わせ 火狩視点



 一日目 顔合わせ 火狩視点



 まさかここまで徹底しているだなんて。


 着てきた服も荷物も全てを没収され、全裸の状態で金属探知機とX線撮影を受けさせられた。


 いくら担当の人が女性だからといって、恥ずかしいものは恥ずかしい。


 検査のための機械だけが置かれた殺風景な部屋の中で、ウチは全裸のまま待機させられた。


 機械の画面とにらめっこしていた女性は何度か頷くと画面から目を離した。


「お待たせしました。異常が無いことを確認しましたのでこちらに着替えてください」


 そう言って渡されたのは、此処に来る前に希望を出しておいた肌着と普段着、そして靴だった。


「明日以降の分は部屋に運んでおきますので」


「ど、どうも」


 スーツ姿の女性は気を遣っているのか目を瞑った。だが、部屋から出ていく様子は無い。


 この場で着替えろと?


 一向に部屋から出ていく様子が無く、かといって更衣室を案内されるわけでもない。

 仕方なく、ウチは女性の前で渡された衣類を身に着けた。

 採寸したこともありサイズは丁度良い。肌触りも申し分がないどころか、普段使用している物よりも心地良い気がする。


 高級品なのだろうか?


 着替え終わったのだが、女性は目を瞑って気を付けの姿勢を維持したままだった。


 これは呼びかけないといけないのかな?


 ウチは恐る恐る声をかけた。


「あの、着替え終わったんですけど」


 女性はパチリと目を開けた。


「そうですか。それではご案内致します」


 女性は観音開きの扉の前へと向かった。そしてゆっくりと扉を開いた。




 扉の先は今いる殺風景で無機質な部屋とはまるで違った。


 高級ホテルや結婚式場のようなレッドカーペットが引かれ、豪華な装飾の照明が左右に並んだ通路になっていた。


「おぉ、お洒落な建物だなぁ」


 その豪華さに圧倒されていると、女性は少し先を早足で歩いていることに気が付き、慌ててその後を追った。


「これは落ち着かんなぁ」


 ウチのような庶民には派手すぎる。照明なんて紐の付いた丸い蛍光灯で充分。こんな高そうな物に囲まれるのは気が気でならない。




 しばらく進むともう一つ観音開きの扉があり、前を行く女性はその扉を開けた。


「うわぁお。お城みたい」


 圧巻だった。


 頭上には巨大なシャンデリア。眼の前には大きな噴水。大理石の床。美術の知識が無いから誰の作品なのかも作品名も分からないが、裸の男女の芸術を感じさせる彫刻が数体。


 こんなお洒落な場所で七泊八日過ごして、五十万円を払うのではなく貰うということが信じられなかった。


「ウチには一生縁の無い世界だなぁ」


火狩かがり様。こちらが一階の『エントランス』と呼ばれる場所でございます。あちらにエレベーター。反対側には『食堂』があります。食堂には毎日足を運んでいただくことになりますので覚えておいてください」


「は、はい」


「万が一迷われてしまった場合は、エレベーターの横に各階の説明がございます。案内を確認して、目的の場所へ足をお運びください」


「分かりました」


 今更だけど、こんなお洒落な空間だと思っていなかったウチはTシャツにスカンツという動きやすい服装を選んでしまった。あまりにも場違いな服装に、恥ずかしくなってきた。


「どうかなさいましたか?」


 ウチの表情からナニかを感じ取ったのか、女性が目を見つめながら問いかけてきた。


「あ、あの、こんなお洒落な場所だとウチ知らなくて、こんな格好を選んでしまったのが、その」


「お気になさらず。火狩様のような服装を選んだ方は他にもおりますし、スーツやドレスを選んだ方はおりません。すぐに他の参加者の方と顔を合わせることになりますが、それでも服装が気になるようでしたらお申し付けください」


「はぁ」


 そんなものなのだろうか?


 でも、ドレスコードが決まっているような場所なら最初に説明すべきだよな。何も言われなかったのだからウチは悪くない。うん。そうだ。そうに決まっている。


 自問自答で解決したウチはそれで満足した。


 女性がエレベーターとは反対方向に進んだ。えぇと、何だっけ。


 そうだ。確か食堂がある方だ。




 食堂も派手な装飾品が天井や壁に並んでおり、床にはいかにも高そうなカーペットが敷かれていた。


「これで全員揃ったな」


 男の声が聞こえたのでその方向を見ると、円卓に男性が四人、女性が二人。合わせて六人が囲むように座っており、円卓の一席だけが空席だった。その空席がきっとウチの席なのだろう。


「火狩様が最後の到着になります。あちらの空いたお席にどうぞお座りください」


 ウチが悪いというわけではないと思うが、皆を待たせたという事実に申し訳無さを感じたウチは急いで席へと向かった。


 席には『火狩』と書かれたVの字をひっくり返したプレートが置かれていた。


 何となく両隣を見ると、右隣に『月野つきの』、左隣に『水嶋みずしま』と書かれたプレートが置かれていた。


「ど、どうも。お待たせしました」


 そう言いながら椅子に座ると、皆がジッとコチラを見ていた。


 何だろう。この余所者感は。


 だが、ウチ以外の皆が既に友達のように溶け込んでいたかというとそんな訳でもなさそうだった。誰もがウチに向けていたような疑心暗鬼の目で周りを見ている。


「チッ、遅ぇんだよ」


 隣に座る水嶋が舌打ちをした。


「すんません。えっと、水嶋さんは早く着いたんです?」


 水嶋という男は金髪のツーブロックで眉毛は殆ど無く、外してはいるがピアスの穴が何個か開いた耳。醸し出す雰囲気も含めてヤンチャしてそうな奴だった。


「チッ」


 何だこの男。舌打ちだけで返された。気分が悪い。ウチが悪いのだろうか。


 何か言い返してやろうかと思っていると右隣の月野が言った。


「あぁ、えっと、火狩さんだっけ? あまり気にしなくて良いですよ。コイツ他の皆にもこんな感じなんで」


「アァッ!?」


 水嶋が唾を飛ばしながらガンを飛ばしてきた。少し身を乗り出せば拳が届いてしまう距離にいるウチは思わず腰が引けたが、安全圏にいるからか月野はヘラヘラと笑いながら言った。


「ホラ、すぐキレる」


「何だとッ!?」


 水嶋がテーブルを叩いて立ち上がった。そしてズカズカと月野の隣に向かおうとすると、月野の隣に座っていた女性が立ち上がった。


「ちょっと止めなさいッッッ!! これから皆で共同生活を送るんでしょ? 子供じゃないんだから喧嘩しないッッッ!!」


 気の強そうな女性がピシャリと言い切った。月野は「喧嘩じゃないよ」と手をヒラヒラとさせながら笑った。


「っせぇな。女は黙ってろ」


 水嶋は女性を睨みつけた。えっと、この人の名前は。


「女? 私は『日谷ひたに』です。プレートにそう書いてあるでしょう? そういう呼び方は不快です。私と同じように皆さん偽名だとは思いますが、少なくともこの共同生活の間はこの名前で過ごす。そういう決まりでしょう? だったら名前で呼びなさい」


「なんで女に命令されなきゃいけねぇんだよ」


 水嶋の矛先はウチから月野に移り、今は日谷に向いたようだった。有り難いと思うと同時に申し訳無さもあった。


 ウチの思いを知ってか知らずか、日谷は一切怖じ気付く様子を見せずに水嶋を睨んだ。


「だったら場を乱すような行動は謹んでください。私だって好き好んで指摘してるんじゃありません。それに、何ですかアナタ達は」


 日谷はテーブルをバンッと叩いた。これにはウチを含めた他の全員が身体をビクッと震わせた。


「さっきから見てばかりで。何故他の方は注意しないのですか? これから共同生活を送るんですよ? 和を乱すような行為は全員で指摘しなければ意味がありません」


「ご、ごめんなさい」


 日谷の隣に座っていた女性が怯えた目で身体を震わせながら小さい声で謝った。彼女の前には『土井つちい』と書かれたプレートが置かれていた。


「えっと、まぁ、ホラ。一旦座ろうか。日谷さんも水嶋さんも。ね」


 土井の隣の『金原きんばら』というプレートのある席に座る男が宥めるように言った。


「チッ」


 皆の視線が自分に集中したことに気分を害したのか、水嶋は舌打ちをしてから席に乱暴に座った。



 ピンポンパンポーン。



 壁にあるスピーカーから大きな音で放送が流れた。


『それでは皆様。準備が整いましたので、今から共同生活を送る「七日館なのかかん」の案内を致します。エントランスに集合してください』


「なのかかん?」


 ウチが思わず口にした疑問に対し、隣に座る月野は呟いた。


「ふぅん。面白いね。偽名はそういうことか」


 何を言っているんだ、この人は。


 月野を含めた皆が席を立ったので、ウチも少し遅れて立ち上がりエントランスへと向かった。

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