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黄道を刻む二十四の時の詩

夏に至る日

作者: 日浦海里

あの人が残してくれた

地を癒やす残り水


青い空の上を

綿のように包んでしまって

白くなったり

黒くなったり


そんな綿雲の行進が途切れて

空が顔をのぞかせた日

そこに在るはずのものがなかった


巡る季節のその中で

今日が一番姿を見る日なのに

どこに行ったのかと思ったら

大きな木の上から漏れ出た光が

柱のように地に射し込んでいた


そんなところで何してるの?


って尋ねたら


あんまり長くみんなの側にいると

みんな暑さで萎れちゃうから


だって


青空を見て浮かれているのか

枝葉の隙間から漏れ出る光は

今にも歌い出しそうだった


君が隠れてる樹のおじいさんは

今、とっても暑そうだけど?


そう言うと


あわあわしながら

慌てて降りようとして

足を滑らせて墜ちてきたから

わたしは慌ててその場を逃げ出す


それでも少し遅かったのか

彼の光に触発されて

あたりの草花たちが

楽しそうに踊りながら

天に向かって伸び始めていた


強い光は

生きるための力強さに変わってく

命になって

熱を生んで

もっと、もっとと生きようとする


でも過剰な力は負担もかける


過度に早く成長すると

身体を支える中と心が十分育ちきる前に

外側だけが伸び切ってしまって

次の命を宿す間もなく

くたっと倒れてしまうから


あまりたくさんの命の力が

伝わらないようにしないといけない


それを気にして

彼は隠れていたというのに


それを気にして

彼女が空を覆ってくれてるのに


青空が見えて浮かれていたのは

わたしのほうだ


そんな気もちを察してくれたのか

青い空は姿を消して

白い雲たちがやってきてくれた


遠くで雷鳴の音がする


これはきっと怒っているな、と

山並みの向うに沸き立つ雲を眺める


火照る肌を冷ますように

降り始めた強い雨は

浮かれた気分を冷ましきったら

あっという間に去るのだろう


せっかく一番長くいられる日

彼も少しは

みんなの姿を見ていたいだろうから


山向こうの雲の扉を叩くその前に

さっきとは違う柔らかな明るさで

水滴の光る草花たちを

輝くように照らしていった


今日は夏至

一年で最も日照時間の長い日です。


夏はまだまだこれからが本番ですが

日照時間はこの日を境に

日に日に短くなっていきます。


草花や生き物たちと

触れ合える時間が名残惜しくて

つい近づき過ぎて

暑くなってきてる、なんてことはないと思います。




【登場人物紹介】


○陽ざしの君

 太陽です。

 生命を包み込む優しさと

 生命が生きていくために必要な温もりの力を持ちながら、

 全ての生命にその力を届けることが出来ないことと、

 その力のために生命を苦しめる事があることを

 不甲斐なく思っています。

 遠くに届けようとすれば、近くを傷つけ、

 近くを傷つけぬようにすれば、遠くには届かず。

 そして、その力を制御できるかと言えば、

 思い通りにもならず。


○夏姫

 空から照りつける光を熱と命に代える力を持ちます。

 陽射しの君や冬姫同様、

 自らに与えられた力を制御することは出来ません。

 その力は多くの命を育てることができますが

 時にその力が過剰となって、命を奪うこともあります。

 どうにかしたいと願ってもどうしようもない現状ならば

 少しでも今を受け入れていきたいと

 その一瞬一瞬を楽しもうとしているのが彼女です。

 誰かのためではないけれど

 みんなのために、と願いながら、

 彼女は今も踊り続けています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 童話のような純文学のような雰囲気の詩ですね。 >でも過剰な力は負担もかける そうですね~…何にでもほどほどが大事ですよね。 素敵な作品をありがとうございました!
[良い点]  童話というか、絵本のようなあたたかさと優しさを感じました。 [一言]  夏はこれからが本番なのに、日に日に陽は短くなる……。それも不思議な気がします。
[良い点]  夏姫。  己の非をすぐに認めるあたり、とても素直な印象です。  しかしそれでも冷静に世界を見守る目を持っているのは、皆のための力を持つものゆえ、なのでしょうか。  季節もあってか、今ま…
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