第8話 襲撃
「さて………皆も聞いておるな?マルコシアスがついに街まで出現するようになった。これは由々しき自体だ。一刻も早く対処せねばならん。」
その日の朝礼はその言葉で始まった。この学校に通い始めて10日目の出来事だった。
「聞いてはいますよ。その焦りようだとCクラス以上及びEXクラス総動員ですか?」
「把握しておるようだな。メアリーよ。そのとおりだ。」
「私は特に出来ることはないとして………ノアとテオは都度、対処に向かうわけね?」
「できれば、メアリーには奴らの心でも読み取ってほしかったところだが………。」
「流石にそれは無茶。クルガが特殊なだけ。」
「やはりな………まぁそういうことだ。全員、油断するなよ?」
その問いに返事を返す3人。
さて………マルコシアス。概ね狙いは僕だろう。自分の役割も理解することなく死ぬのは嫌だ………嫌だが………。
「クルガ………?」
その声ではっと顔を上げる。見下すのはノア。心配そうな表情を浮かべている。
「あなたなら、大丈夫。」
その一言にどこか懐かしさを覚えながら、ノアの体温を感じる。優しく僕の背を撫でる彼女の手はとても暖かかった。
夢を見た。大きくなった僕がまっさらになったノアの前に立っている夢だ。ノアもかなり成長している。今のメアリーと同じくらい………15、6程だろうか。
ノアはいつものように僕の頭を撫でる。そうして言うのだ。『ありがとう』と、その一言を。
何がそんな夢を見させたのか、どういう光景なのかは解らない。ただその一面には文明の跡はなかった。在るのは、大海、森林、炎、大地、針山………正に地獄であり、混沌としていた。次に本能的に理解するのは、そこには運命すら介入することができない。ましてや、存在そのものさえも怪しい点であるということだけだった。なぜそんなことが解ったのかもわからない。
ただそれは、1つの可能性の終点であるだけだというのに。
教室の扉が勢いよく開かれる音で目が覚める。そこに立っていたのは一人の男性教員だった。その人が言葉を発するより早く、アステリカ先生は反応する。
「何事だ?いや、聞かずともわかる。マルコシアスだな?」
「は、はい!校門にてマルコシアスの群れおよそ50頭程が出現。現在、Cクラス以上の生徒、及び教員で対応しておりますが………さすがは悪魔と言ったところです………。」
「………解った怪我人は下げろ。いいな。」
「はい!」
「さて、聞いたな?くれぐれも気を付けるように。」
「「はい!」」
「私は一旦待機で。何かあったらすぐ教えて?」
「了解、前線には出なくていい。」
テオとメアリーがそんな会話を交わす。そうして僕たちは校門へと向かった。
酷い状況だ。余りにも一方的すぎる。だが、手当たり次第というわけでもない。だからこそだろう怪我人などいなかった。
「本命を出せと言わんばかりだな………。」
テオのつぶやきに対して、ノアの僕を抱きしめる手に力が入る。
「やっぱりテオもそう思う?不安要素の排除………それしか考えられないよね。」
「………とっとと終わらせよう。クルガ、できる範疇付き合え?」
恐怖心を振り切るように、僕はノアの手から飛び降りテオに続く。ノアも、僕を信じているのだろう。後をゆっくりと付いてくる。そうして、ノアが手を掲げ宣言する。
「………テレポート。」
その一言で、生徒の姿が消える。支えを失った群れは雪崩のように押し寄せてくる。いや………今の一瞬何が起きた………?
「地形破壊はやるんじゃないぞ?」
「じゃあテオ、お願い?」
「………フェンリル………!」
テオの一言は大地を凍てつかせる。あのときの言葉は決して誇張などではなかったとすぐに分かるほど、氷がすべてを襲っていく。
「半分くらいはどうにかなったか?」
「テオだってめちゃくちゃにしてるのに………。」
「ノアの質量爆弾は絶対に駄目だ。洒落にならん。」
「………わかってるよ。」
少しがっかりしたようにノアは答える。しかし………半分になったとはいえ残りはどうしたものか………?
「でも、あとはどうするの?」
「そのために呼んだんじゃないか?」
そうして、テオは僕の方を向く。一瞬、思考が止まるも、理解する………なるほど、落とし前は自分でつけろということか。
無茶を言わないでほしい………いや、できる気など毛頭してない。
「待って!クルガはまだ―――――。」
「別に死ねとは言ってない。ただ、出来ることはやれとそう言っただけだ。」
そう言って、テオはしゃがみこみ僕の顔を見る。
「俺の言葉がわかるなら出来るな?」
威圧感などはなかった………だが別の何かは感じ取れた。野望のような………願望のような。
何処かで感じたことのある気配だった。
気がつけば………僕は戦場を駆けていた。風とともに、すべてを引き裂きながら………。