第5話 魔術学校
さて、半月などあっという間であった。その期間、僕はノアに勉強を教えてもらっていた。この世界のこと、魔術のこと、権能のこと………基礎的な部分はある程度理解できるようになった。そして今日からいよいよ………魔術学校が始まる。
ノアが通っているのは王立ディラゲア魔術学校。王都ディラゲアに存在する完全実力主義の魔術学校だ。クラスわけは基本的にはE~Aクラス。一般人の平均は大体E~Dクラス程度。魔力量が多いとなるとC~B。更に優秀なものはAクラスへと振り分けられる。そんな中ノアのクラスはEXクラス。エクストラ………本来なら存在しないクラスだ。というのも全てノアの権能が原因である。
「さ、クルガ行くわよ?」
そう言うノアについていく。そうして彼女は僕を抱き上げた。ここから学校まではそう遠くはない。どうやら徒歩になるらしい。
制服に着飾った彼女に抱かれ、町並みを歩いていく。屋敷があまりにも広いせいで今まで外に出たことはなかったが、なかなか活気づいた町であった。見渡せばチラホラとノアと同じ制服の学生が目立つ。だが………ノアのようなテイマーというのは居ない。その時、後ろから声をかけられる。
「あら、ノア様。おはようございます。その子は?」
「アリシア、おはよう。そうだったわね。テイマーの課題出されたのは学年で私だけだったわね。」
「ノア様、テイマーの才能もあるんですか!?」
「運が良かっただけよ。さ、行きましょ。」
そう言うとノアはまた歩みをすすめる。さも鬱陶しいと言わんばかりの歩みだ。
それにしても、この世界でテイマーというのは珍しいものなのか………。まだ一般常識が僕には備わってないからな。この世界を見るという意味でも、魔術学校に行くというのは有意義なことだろう。
目の前に広がる巨大な校舎………ノアの屋敷よりも大きい。そりゃあそうか………ここの生徒数も物凄いからな。目新しいものに視線を移しながらノアとともに僕はその校舎の中に入っていく。
しかしまぁ、異様な光景だ。僕の存在は奇異の目で見られる。それほどテイマーというのは珍しいのだろうか?
「クルガ、大丈夫?」
僕の変化を察知したのだろう。ノアは語りかけてくれる。僕はただ静かに首を振る。
「こんなにたくさんの人だかりだものね………少し刺激が強かったかしら?」
それに対して、僕はまた同じ反応を返す。正直慣れない。緊張なのか………?僕の一点に視線が集まるこの状況は………いや違う。今までになかったものだ。外界と自分とを断絶させるかのような感覚。こんなの今までの人生でもなかったぞ?
「じき慣れるものよ。それに、これから向かう教室は人数が少ないから。」
その言葉を聞き安心する。だが、今は正直目を開けていたくないほどに辛かった。
しばらく、廊下を歩く音と話し声だけが聞こえる。それも数分間だけ続いた。すると突然、足音も話し声も止んだ。
「ついたわよ。」
今まで瞑っていた目を開ける。そこは小さな教室であった。それこそ2、3人程度が授業を受けるような小さな教室。既に2人、生徒が見受けられる。
「ここが私達の教室。」
「あ、ノア。おはよう。その子は………あぁ、テイマーの課題か。」
「ノア、やっぱり貴女おかしいよ。」
この2人は………どこか今までの生徒とは違うというのはわかった。
「と、思ったけど………その子も特別みたいね?」
「やっぱりわかるの?」
「まぁ、伊達にEXクラスじゃ無いからね。」
歳は………そこそこ離れていると見受けられるが、話し方は随分とラフな少女。それを横目に流し聞きしている少年。
「へぇ………君、もとは人間だったんだね。」
「!?」
彼女はいとも容易く………見破った。
「メアリー…それはどういうことだ?」
少年のほうが、彼女に聞く。
「そりゃあね………記憶の権化ですから。」
「そうじゃなくて、もとは人間って言うことについて聞いてるんだ。そりゃあ………あり得るのか?」
「落ち着きなさいよ、テオ。あり得るかあり得ないかと聞かれれば、そりゃああり得ない。でも私の見た記憶だよ?間違いはない。前世の記憶でも持ってるのかね………?」
「な、なるほどな………。」
「というか、言葉が通じるなら挨拶しなきゃ。私はメアリー・レグワー。よろしくね。ほら、テオも。」
「………テオ・アビスだ………本当に言葉通じるんだろうな?」
「私が言うんだから間違いないの!」
「お、おう………。」
3人だけの少ないクラス。だが………それでもここが特別というのは解っていた。なんと言ったってテオも………その溢れる呪いの力を完全に抑えきれては居ないのだから………。
ここはEXクラス。本来なら存在しない………そんな存在が集うクラス………。