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第12話 記憶

「なんか、追い払ったのに元気ないね?」


 メアリーがテオにそう聞く。


「………別に。」


「当ててあげようか?」


「は?」


「クルガもちょっと感じてたんじゃないかな?だって、話を聞いたときから目が変わってたよ?きっと、フェンリルの気配がしたんじゃない?」


「!?」


「記憶を読む………それは言い方を変えれば現在までの思考を読む力。まぁ話を聞きなよ。クルガの記憶も含めてここで全部を話す。私の前で秘密なんて無意味だからね。さっきの戦いで判明したのは、テオの一族に氷結の呪いをかけたのはクルガの母親よ。」


 そんな話は聞かなかった………どういうことだ?


「でも、クルガはフェンリルじゃない。育てられただけ。それで、ちょっと逸れるけどテオは古の種族の混血だった。」


「お、おい、そんな話は俺も知らないぞ!?」


「話は最後まで聞きなって。古の種族が滅ぼされた際、テオのような一族には氷結の呪いが振りかかった。それでほとんどは淘汰されたけど………テオの一族だけはそれを己の力にすることができた………まぁ、どうしてかはいずれ解るでしょ。今じゃない。さて、これがとりあえず4000年の歴史。そしてテオの目的はフェンリルに直接呪いを解いてもらうことだった。そうよね?」


「………あぁ………。」


「………1つ聞いてもいいですか?メアリー、あなたは一体………?」


「言ってるでしょ?記憶の権化。一目あった人物の記憶を見れるって言ったのはそうだけどそれだけじゃ無い。そうよね………アンフェアだもんね。私の力はその一族の記憶まで遡ることができる。だからクルガの生みの親はフェンリルじゃないこともわかる。でもだからこそ、フェンリルの素性はクルガと過ごしていたときしかわからない。」


「………なるほど………記憶の権化………。」


「引いちゃうよね?私だって驚いてるもん。こんな力を持っちゃってさ………。」


 そこまで膨大な記憶量なんて………普通人の体で許容出来ることじゃない。メアリーは………メアリーの力は本当に呪いのようなものだ。


「はぁ、暗い空気になるのは無しだ。ともかく、今はあれらを追い払うことができた。それだけで良かったじゃないか。」


「………はい。」


「さ、授業始めるぞ。」


 そうして、アステリカ先生による授業が始まった。特に何事もなく進んでいくが、それでも空気は重かった。それだけの暴露だったのだ。ともかく、しばらく何もなくていい。僕もなかなか………疲れた。


 気がつくと意識が落ちていた。そしてまた、夢を見ていた。ただ、以前のときとは全く違う。僕が見たのは………まさしく混沌だった。全て………その一言がもっとも合っている。全てが際限なく渦巻いていく。ただそこに僕は立っていた。それだけの夢であったが、とてもただの夢だと割り切ることはできなかった。


「クルガ………?」


 その声で目が覚める。駄目だ………流石に疲れすぎて意識が保てなかったみたいだ。1日に2回もうたた寝をしてしまうとは。


「すごく疲れているみたいね………。」


「無理もないだろう。あれだけの権能をフルタイムで使い続けてたんだから。」


 そう声をかけてきたのはテオだった。そうして、ノアの膝の上にいる僕まで目線を落としてを落として、僕の頭を撫でた。


「ありがとうな、クルガ。無茶言ったのに呑んでくれて。」


 テオの純粋な言葉だった。


「本当………テオは無茶言い過ぎよ。」


「悪かったよ。」


 そんな会話が続く。メアリーは………介入してこなかった。何処か遠くを見ている。日の傾きから察するに、今はもう昼休憩ということだろう。どうにも、メアリーの様子が気になる。ふと………僕はノアの膝の上から降りたのだった。


「クルガ?」


「メアリーが気になるんだろ………。」


 テオとノアはそれ以外に反応を示さなかった。


「クルガ………。」


 その一言を呟く。やっぱりいつものメアリーとは違う。それだけは確かだ。


「ごめんね、勝手に秘密バラしたりして。」


 秘密………というわけでもないのだが………なんとなくわかった気がする。メアリーは、とっくの昔に壊れていたのだ。モラルだとかそんなものは捨てていたのだ。いや、捨てなければ自分が壊れてしまうから。メアリーは………相当苦しんできたんだろう。故にこの前のような違和感があったのだ………。


「やっぱり私って壊れちゃったのかな。」


 僕にしか聞こえないようにメアリーは言う。


「もうさ………15年もこのままでさ………疲れたよ。正直。でもさ、それでも死んじゃいけないんだよ。ノアの為にもさ。」


 ノアの為にも………?


「私達は勇者に全部を託さなきゃいけない………だから死んじゃいけない。クルガ………。」


 僕の名を呼んだきり、メアリーは黙り込む。何も言葉はなかった。僕は………何もできる気もなくただそこに居た。

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