第10話 予定調和
いやぁ、間一髪。よかっよかった。これで僕の出番はしばらく無いはずだ。少なくともあと数年は。イレギュラーは観測されてないからな。今までは………。
「お、こんなところに居たのか、ギル。」
その学校の廊下で、僕は声をかけられる。ここは帝都ガルハの魔術学校。僕はその生徒、ギル・エルトだ。
「あぁディアス。僕に用かい?」
「用ってほどのことでもないんだが、あの話だよ。」
「あの話…?」
「ほら、ディラゲアの魔女が―――――。」
「あぁ、アステリカ………だっけ?あの石のオブジェクトを調べに来たっていうあの話?」
「そうそれだよ。」
「で、それがどうかしたの?」
「いやそれがな、その魔女が調べてみたらそのオブジェクト、活動を停止してたんだとよ。」
「うん、だろうね。」
「な、知ってるのかよ!?」
「知ってるというか必然。予定調和だよ。」
「予定調和………?」
「そう、予定調和。ほら、聞いたことあるだろ?あれは勇者を呼ぶための装置だって。」
「あ、ああ。伝承ではそうなってるな。」
「そ、つまりは勇者が呼ばれたってことだ。」
「は、はあ!?勇者ってそんなお伽話じゃないんだから―――――。」
「まぁ、その反応はもっともだね。じゃあネタバラシをしてあげよう。僕の権能………いや、僕が権化であると言われる所以についてだ。」
「お、おう………たしかに気になっちゃいた。なんでお前が運命の権化なんて名前なのかな。」
「まずはそこ、この世界には既に21人………うん、21人の神の権化が居る。」
「21………?」
「19柱と2柱だね。この2柱は外界の神なわけだ。そしてこの神たちの力を半分以上行使できるものが権化って言うわけ。そしてこの『権化』全員こことは違う別の世界から来ている。」
「………すまん、言ってることの半分もわからん。」
「………だろうね。まぁ、続けさせてもらう。この別の世界っていうのも理由はあるけど………話がそれるから、これらのことを踏まえて僕が見た運命のそのすべてを話そう。さて………あのオブジェクトは召喚装置。それは4000年前から存在する外界の神、楔の神に対するカウンターだよ。」
「そのカウンターが勇者…?」
「そういうことだね。この勇者も外界………うん、外界の神なわけだ。さて、この楔の神………本格的な覚醒は9年後。彼女が19歳になったときだね。この勇者は彼女と戦わなくちゃいけない。」
「な、なるほどな………?」
「で、僕たち神の権化というのはこの勇者になれなかった存在だ。あれは………外界の神の権化となる装置なんだよ。で、僕たちは副産物。内側の神々を知らないと外界の神なんてわからないからね。本命は彼だ。」
「つまりは………9年後とんでもない争いが起こるってことか?」
「まぁそういうことだね。僕たちじゃ到底どうすることもできない争いが。でも、このままだと彼は勝つ。必ずね。」
「そりゃあ………安心だな。」
「まぁ、このままだとっていう話だよ。実のところ、僕の目にはここから先数年………ざっと4〜5年かな。その運命が見えない。つまりは………ここから先は僕の知らないイレギュラーが待ってる。」
「でも、勝ちは変わらないんだよな?」
「いいや………彼の力が無理やりこの運命を見せているからね。いやぁ………本当彼の辿る道は一本道だったはずなのに何が降りかかるっていうんだか。」
いやぁ、この世界の人間に僕の見ている世界を説明するっていうのは難しいものだな。いくつもの世界を見て、渡り歩き可能性を思案した。だが全くわからない。僕の力を持ってしても、ここから先は暗黒期なわけだ。本当に観測が不可能。はぁ………いつから狂ったんだろうか………。
「ってそういや、お前そのフード何…?」
「ん?あぁ、彼に顔が割れちゃいけなかったから………あ、いや何でもない。」
「お、おう………本当、お前掴みどころないよな。」
まぁ、掴みどころがないのはそれはそうだろう。だって僕はどこの世界線にも居る。そしてどこにも居ない。普通の人間に僕を捉えることはできないだろう。たった一人彼を除いて。
「いやぁ、でも本当………どうなるんだろうね。この先。」
「ま、まぁ大事にならなければいいんだけどな。」
「僕が観測できないだけで大事だよ。」
そう言葉を交わして僕たちは廊下を進んでいく。次の授業は何だったかな………そうだ移動教室だったな。さて………僕はこれでしばらくは出番なしだからゆっくりと………そうして僕はその教室の扉を開けた。
「………。」
唖然とする。僕は今焦っている。違う。僕の見た先生と、いつもと違う。
「先生変わったのかな?」
そう言ってディアスは席につく。
「ギル君、席に付きなさい?」
落ち着きのある声。だけど僕は恐怖していた。こんなところに居たのか………イレギュラーは………。