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第1話 狼

『………ん?』


 目が覚める。いつもどおりの清々しい朝。風が吹き、木漏れ日が優しく僕を撫でてくれるようで………待って、風?窓を閉め忘れた?いやいや………木漏れ日?


『………ん!?』


 脳までしっかりと覚醒する。大木が視界に写った。なんだ?ここは………森?それにしては温かい。毛皮に守られているようだ。


『あぁ、起こしてしまったかしら?』


 僕の声ではない。なんだ?誰の声だ?その問いに答えるかのように、その存在は僕の顔を覗き込む。


『お………お―――――。』


 紛れもない………体毛は白く、瞳は青い………優しさを感じるその存在感。本能的に感じ取ったのはその存在が僕の母であるということだけ。では視覚的に感じ取った情報は?それは言葉にする他なかった。


『―――――狼………。』


―――――――――――――――


 何をどうしてか、僕はこの世界に狼として生を受けた。前の僕は死んだのか?ただ普通に寝ていただけだと思ったのだが?仮に今は前世ということにしておこう………。

 さて、ここに生を受けて二十日程度が経過した。僕以外に兄弟はいない………どころかそもそも群ていない。どこかで聞いた話、基本的に狼は群れて生活するものと聞いていたが………そういう種類なのか、はたまた………まぁ、今は考察も意味をなさないだろう。

 母は優しい………もっとも、姿が狼のためどうにも母さんと呼ぶのに抵抗があるが。

 僕も走り回れるようになった頃合いだ。母からあることを口酸っぱく言われるようになったことがある。


『いいかい。他の狼には近づいちゃだめよ。』


『うん、わかってる。』


そう言って僕は森の中を駆け出す。なぜ他の狼に近づいては駄目なのかは理解らないが………僕の目を見るなり母はそう言い出した。何か、他の誰かと違う何かが僕にはあるのだろうか?

 小さい体躯が駆けて行く。風を切り裂くように僕は駆ける。木々の間を縫うように無邪気に駆ける。何………これしかすることがないのだ。楽しいというわけではない。

 しかしまあ………僕はこのまま狼として生涯を終えるのだろうか?ともすれば狩りも自分ですることになる。


『出来るのか…僕に………。』


呟きながらもただ走る。この体になってからというもの、動いていないと疼いて仕方がないのだ。

 そうして、どれほど走ったか。この体は疲れを知らないようである。その代わりに僕の歩みを止めたのは、一筋の遠吠えだった。


『今のは………狼か?だいぶ近いぞ………。』


 ともすれば、僕はどうなる?近づくなと再三言われてきたが………それはもしや僕が食われるからではないだろうか?


『逃げなきゃ………。』


 途端に恐怖が僕を支配した。それとともに足は勝手に動き出す。野生の本能だろう。

 来た道をひたすらに戻る。このまま何事もなく終わってくれと、そう願うばかりだった。だが、虚しくも気配は感じる。そのうえでまだ僕は動き回れる程度。言うほど速くもない。


『くっ………。』


 ガサッと草むらからようやくそれは姿を表した。


『なるほど………これが()()()()の子か………噂通りの瞳だな。魔力も異常。こりゃあリーダーがとっとと摘んどけっていうのも頷ける。』


 僕よりも数段大きな体。その声は無条件に僕を恐怖させる。そして………もちろん気がついているとも。僕が取り囲まれていることくらい。


『恨みはねぇが、リスクは摘み取るに限るんでなァ………悪く思うなよ、ガキ………。』


 これは………かなりヤバい。というよりも、助かる道など残されてないだろう。こんな早々に終わるのか?いいや………最後まで足掻くさ。わけのわからないうちに最後を迎えるなんて御免だ………なら、僕は―――――。

 覚悟もつかの間。辺りには遠吠えの木霊だけが響いていた。


『………こちらから近づかない限り手を出さないという約束だったはずよ?』


『母さん………?』


 その白い狼は紛れもなく僕の母だった。凛と、ただそこに立っていた。それだけでも解る。威圧感が凄まじい………。


『………シロ。』


『その名で呼ぶな………もう捨てたものだ。』


『人の手に堕ちたテメェが………。』


『黙れ!それとこれとは別問題だ!おとなしくその子を返してもらう。』


『わりィが………リーダーの取り決めなんでな。いくらシロでも、全力をかけさせてもらうぜ………。』


『そうか………あいつが………なら、手加減はいらないと見たよ。私は、すべてを喰らおう………。』


 途端に空気が渦巻きだす。母さんが………あの白い狼が………怒りを具現化したように成長していく。


『流石は白狼………俺達が全力でかかっても倒せやしないだろう。だがな、俺達の勝ちはこのガキにかかってるのを忘れたか?』


『………お前たちにとってはただの幼子かもしれないがな………その子は、(おおかみ)だ………。』


 空気はヒリつき………緊張で我を忘れてしまいそうなほどであった。

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