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植物の陸地制覇

地球に海が誕生する前から陸はあったが、そこは全くの不毛の土地だった。

海で生命は生まれ、そして長い時間をかけて海の外、すなわち陸地へと生息域を拡大したのだ。

その時に克服しなければならなかった二大障害は紫外線と水の確保である。

これをクリアできた植物が尖兵として上陸を果たすことになる。


 さて、話を生命の進化へと戻そう。


 生命体は酸素という新たなエネルギー源を得て進化の速度を増し、いろいろな生命体が生まれた、とはいうものの、地球自体の構成材を直接エサとして使える生命体は、この光合成を行える生命、つまり植物だけだった。

 それ以外の生命体は、他の生命体が作り出したもの、もしくは生命体そのものをエサにする生き物だった。


 このことは、当然、陸地進出の順番のトップは植物以外考えられないということを意味する。


 植物の新たな地への進出は、生物全体の生存圏拡大の可能性を開いた、ということである。


 人類の祖先は、この時代、魚になれていたかどうかぐらいの進化レベルだったはずだが、この時からすでに植物の後を追っかける運命に置かれていたのだ。


 さて、四億七千年前のこの植物の陸地進出時点、光合成を行う藻は立派な植物に進化していたわけだが、この時の植物の最大の敵は植物そのものであったはずだ。


 植物を捕食する他の生物はまだ水の中から出られないのだから、当然だ。


 より良い場所を早いもの勝ちで占拠する。


 これが植物の生存戦略だったはずだ。


 具体的には今まで水の流れを頼りにしていた生殖細胞の分散をいかに水に頼らずに行うか。

 これが陸上で生きることを決めた植物にとって喫緊の課題だったはずである。

 虫もいないんだから、当然使えるものは自然に吹く風ぐらいしかない。

 と言ってもそんな高度な技が使えるようになるには相当の時間がかかったろう。


 だから最初は、水辺と呼ばれるような同じ場所だけで世代を積み重ねただけだった。

 同じ場所で繰り返し繰り返し世代交代を進めていくと、やがてその土地がその植物の死骸だったものに覆われることになる。


 炭素を含んだ土の誕生だ。


 もちろんその成分は雨にも流されるだろうし、必ず固着するものではないが、それでもそれまでのケイ素由来の土に比べれば、固定化した炭素を含むこの新しい土には、親水性があり、長く水を保持してくれるので、水辺から切り離されても一定の時間水を保ち、生育環境を残してくれるありがたいものだったはずだ。


 つまり水を常に湛えた場所から徐々に内陸へと植物が離れる状況を作ったのも植物なのである。


 植物自体が繁殖域を拡げると、保水力の高い土地も広がるという仕組みだ。

 植物が水を陸地に運び上げた、と言ってもいいだろう。


 植物自体もこの新しい環境にすぐ適応した新しい種類を生み出したはずである。

 水棲植物だった頃には身体を固定する以外全く用の無かった根から水分や養分を吸収する仕組みを持った種類が生まれたのも、結局はこの植物の作り出した新しい土壌のおかげだ。


 自分たちの先祖が残したものを踏み台にして新しい生存圏を獲得していく。

 いかにも生物らしいしたたかさだとしか言いようがない。


 ある意味、生命の歴史というのは自然と抗うことの歴史なのである。


 植物が陸で繁殖域を徐々に拡大していくと、遅れてやってきた他の生物も植物の繁殖域をなぞるようにその領域を拡大していったはずだ。

 捕食させる代わりに繁殖の手伝いをさせる、というような今も続く植物と動物の関係もこの頃始まったはずである。


 植物は陸に上がり、自らの仲間を増やし、せっせと光合成に励み、空気中の二酸化炭素は次々と有機物に変えられていった。


 一般的な恒星の一生のモデルから推察すると、この頃、太陽自体はそれほど大きく変化していないと考えられるので、もっぱら二酸化炭素濃度が高いことが原因だろうが、高い気温と高い晴天率のおかげで、この頃の植物の炭素固定のペースは今の植物の比ではないほど高かったはずだ。


 このことは次のように表現することもできる。


 そもそも植物の大元のエサは二酸化炭素なのである。


 数を猛烈に増やし、自らの屍を新たな土壌に変え、植物は陸上で空前の繁栄を見せることになった。

 それを支えたのが高濃度の二酸化炭素とその温室効果によって保たれていた温暖な気候だ。


 今、世界中で見られる、寒冷地の植物、即ち温暖な気候を嫌がる植物はずっと後世になってから登場したのである。


 この時の地上の植物で暖かい気候を嫌がる植物はいなかった。


 一億年前、恐竜時代でもまだ二酸化炭素は大気分圧で三十パーセントぐらいはあったらしい。


 因みに温暖化が顕著とされる今、二酸化炭素が大幅に上昇したと見られるデータでも、その数字は僅か五〇〇PPMに過ぎない。

 温暖化の起こる前とされるデータはさらにこの半分だ。

 改めて書くが、五〇〇PPMは百万分の五百。

 ボロい計測器では計測できないほど少ないのである。


 濃度の高い二酸化炭素は、植物にとって楽園、金城湯池なのである。


 最初の人類がようやく地球に現れた二百万年前ぐらいまでには、地球上の全陸地は植物によって完全制覇されていたのである。


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