第2話
彼岸花を土に埋めて上からやさしく手で地面を固めて植え込みを終えた。別にこのままでもいいのでしょうけど植物が育つにはある程度の水が必要と思い、私はまた花を踏みにじらないように気をつけながら歩き、川沿いの前に座り両手で川の水を掬った。
「あっ冷たくて気持ちいい」
どうせなら花に水をやるより先に顔を洗おうと自分に目掛けて水を被った。大雑把に洗顔した後は何も気にせず勢いのまま口の中に水を流し込み喉の乾きを潤した。
「生き返った気分、それに水が冷たいと目も冴えますね」
額から口元まで雫だらけの顔を手で拭って水気を払い、本来の目的を遂行するため改めて両手で水を掬い上げ彼岸花の所に戻った。指の隙間からポタポタと水を落としつつも出来るだけ多く持ち帰った後は、花を埋めた場所に両手を少しずつ開き真ん中からゆっくりと水を流した。
「水ってどれくらい必要ですかね? もう一杯くらいあげようかな」
私はさっきと同じ動作を繰り返し、手の水を掛け流している時に荒らしてしまった彼岸花の違和感に気がついた。
「倒れた彼岸花は何で私の周りだけなんだろう?」
水を掬うために川沿いに向かうまでには数十本の彼岸花が咲いています。何も気にせず歩いていたら普通は花を踏んでしまうはずなのに、私が横たわっていた場所以外の足跡やそこに来るまでの形跡が何処にも見当たらない。
「空から落ちてきたのかな?」
素朴な疑問に対してあり得ない答えを出したが今すぐに解決はしなさそうだなと感じました。
もう彼岸花も埋め終えた事ですし、この場所から離れるための行き先をどうするか4つの選択肢を考えた。まずは川上に行くか川下に行くか、それとも川を渡って向こう岸に進むか、はたまた土手を登って道を探すか。どっちが北かはわからないけど東西南北すべての進路が挙げられた。
「ここは消去法で選ぶとしましょうか」
まず川を渡るのは却下しましょう。霧が掛かっていて遠くは見えづらいのですが対岸まではそれなりの距離があるように見えます。仮に対岸が近くても途中で川の流れが急な場合は溺れてしまい元も子もありません。ていうか服がずぶ濡れになるのはその後が困ります。
「これは選択肢に入れるまでもなかったですね」
じゃあ土手を登って道を探すのはどうでしょうか。登ってみて周りを上から見て道を探すのもいいとは思いますが、もし道があったとしてそのまま進むかは別の問題です。無事に誰かに会う事ができればいいのですが、その道が獣だらけのような場所に続く場合は一人で行くのは無理でしょう。やがて日が沈んで夜に一人でそんな所にいるのは危険極まりない。
選択肢を2つに絞り川上と川下のどちらかを選ぶことにして、この先の地形について予想を立てた。
「この川ってどこから湧いてどこに流れていくんですかね」
川上の最終的に行き着く先は水の湧いている所、そこが泉になっていれば何かしらの集落があって人がいるかもしれない。
川下の場合は水の流れが緩やかになり水が汲みやすくなっているだろうから、その近くで生活をしている人がいるに違いない。
「可能性としては川下の方に人が住んでいるような気がしますね」
私は川下に向かって踏み出したが、すぐに足を止めた。いや待ってください、川上でも川下でもこの先が滝になっている可能性は捨てきれません。行き着いた先が滝だった場合の地形は崖、そしたら私は登れないし降りられもしない。もし誰にも会わず行き止まりにたどり着いてしまったら来た道を引き返さないといけません。もしかしたら滝の近くで住んでいる人がいるのも無きにしも非ずですが。
「滝の近くに住む人ってどんな人なんでしょうか? 修行僧とか仙人?」
真面目に考えていても長くは続かずくだらない想像だけが残ってしまった。進行方向を決めあぐねている時に、ふと川に目線をやると上流から下流へと小さな笹舟がポツンと流れてきた。
「笹舟が流れきたということは……」
まさかこんな子どもの遊びに救われるとは、きっと私はとても顔をほころばせていたでしょう。上流には誰かがいると確信した私は川上へと歩き始めた。