第1話
私は川のせせらぎで目が覚め、そこで仰向けに横たわって空を見ていました。なぜこんな所にいるのか状況が飲み込めないけど、微かに風を感じ近くの植物の揺れる音から察するに屋外という事なのは間違いないと思います。だけどそれ以外の音はまったく聞こえてこない。水と自然さえあれば普通は鳥または小動物の鳴き声が聞こえても不思議ではないがそれらが一切ありません。
「ここはどこなんでしょう? 誰もいないのかな?」
もしこんな所で人が倒れていたら声を掛けられるか、大声で助けを呼ばれて最悪の場合大騒ぎになってしまいます。物珍しさで子供達に何かの枝でつつかれて目覚めていないこと考えると、ここに今いる人はきっと私だけと結論づけた。
「助けも呼べないとすると自分でなんとかしないといけないんですね……」
現在地を確認するために視線を右に向けると細長い何かの植物の茎が何本も見えた。反対に目線を反らして左側も確認してみたが同じ景色が広がっていた。誰かの家の花壇の真ん中で寝ているのでしょうか。でしたら持ち主に見つかって怒られる前に逃げようと思い立ち上がろうとした。
しかし、なんともいえない疲労感で体が重たくて仕方がない。自分の体に慣れていないみたいで足は動かず腕一本でさえ厳しい。どうやらすぐには立てないみたいです。
「私は昨日なにをしていたのかな? お酒でも飲んで酔っ払った? だからこんな所にいて体が動かないの?」
天を仰ぎながらいたずらに疑問だけが増え続けてゆく。このまま太陽に照らされているのはただ眩しいだけなので、瞼を閉じながら記憶を思い返す。今がお昼の正午だと仮定して昨日の夜は何をしていたのか、その間までの時間を遡ろうと試みたがとある一つの答えに行き着いた。
「何も思い出せません」
驚きのあまり目を開けて太陽を思いっきり見て瞼の裏に残像が出来てしまいました。今度は眉間にシワを寄せながら目を深く閉じた。服も着ているし靴も履いています。衣服に破れや体に傷がどこにも無いことを考えると事故ではないでしょう。
もう一度、記憶を遡ってみるが行き止まりのようにすぐに振り返る事の限界まで達してしまい頭の中でこれより先には進めないように感じた。
むしろ私は今ここに、この状態で人生が始まったかのような感覚。
「絶対おかしいです。私の中で何が起こっているの?」
しばらく考えている間に徐々に自分の体の調子が戻っているのに気がついたので腹筋に力を入れて手で支えながらゆっくりと上体を起こした。
周りを見渡すとそこには赤い花だけが一面に咲き乱れていた。いま見えている場所から限りなく先まで、川沿いから土手まで地面は赤い花で染まっている。手入れされている様子は見当たらず誰も立ち入らないような場所で無造作に咲いている。
空は青く所々に白い雲があり晴れてはいるが薄く霧がかかっている。しかし花のせいなのだろうか、その霧も薄っすら赤くなっているようにも見えます。
「見る人によっては綺麗なんでしょうけど……なんか怖い場所ですね」
とりあえず誰かの花壇では無いことに安心しました。これで誰かがやって来て怒られることはありません。しかし、こんなにも人影が無いのは少しばかり気がかりです。裏を返せばこんな場所で誰かがいたら、それはそれで怖いのかもしれないけど。私は自分のいる場所に不気味さを覚え早くここから立ち去ろうと決めた。
膝を曲げて立ち上がり手で髪の毛を軽く流し、首の後ろから土埃が服の中に入らないように注意しながら落とした。下半身の土も払うため目線を下にやると、私が横たわっていたせいで花が潰れている事に気がついた。
「うわっ!ごめんなさい!」
自分で犯した申し訳ない惨状を目の当たりにし、つい言葉に出して花に謝ってしまった。真下には花びらが散っていたり、茎が折れていたり、かつて横になっていた時の足元に至っては踵を引きずりながら立ち上がったから、花が根っこごと抜けていました。
酷いことをした自責の念から私はまた芽吹く事を願い、その場に花を埋めることにした。爪の間に土が入ることも気にせずに指先である程度の深さまで地面を掘り起こし潰れた花を拾い集めた。その時、ただの赤い集塊の内の一輪の花を手に取り一言つぶやいた。
「この花の名前って確か……」
さっきまでなんとも思ってなかった赤い花を改めて見て悪寒が走った。私の周りに咲き乱れていたのは、その毒性からは動物には避けられ人間からも忌み嫌われている彼岸花でした。
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