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牢の中の僕は愛を知っている  作者: 楠木 茉白
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6

僕の人生に変わり映えなく、ただ淡々と勤務を行って行くだけであった。


藤原星空を彩奈の元に帰すのを明日に控えているが、僕にあの家族を上手く扱えるのだろうか、最悪の事故が起こるのではと気が気でなかった。


僕の頭の中には退職という言葉も過ぎったが、すぐに二度も退職する様な人間を雇う様な会社はあるのだろうかと不安定な気分では退職届など出せるはずもなく、僕の過去をさらけ出してしまった事に後悔が後から襲ってきた。


打田先生や水上先生は何もなかったかのように変わらず接してくれている。本当に出来た人たちだ、それに比べ僕は本当に小さな人間だと思う。


「萩原先生」

「宮沢課長、お疲れ様です」

「今日はもうお帰りですか?」

「え、あっはい」

「萩原先生は駅まで行かれるのですよね」

「はい」

「では、私も駅の方まで行くので、お付き合いよろしいですか?」

「は、はい」


本心を言えば、一人で帰りたい気分であったが、宮沢課長の誘いであれば断わる訳にはいかない、特に単に上司の一人であるならば、され知らず、宮沢課長は僕が社会に出てから、最も人格者と言える方で仕事もやり手で誰からも一目置かれる存在だ。


そんな方が僕の過去に関わっていた。聞きたいと言う気持ちもあるが過去を聞いて何か変わるとも思えない、何よりも知ることが怖い。自然と職場では宮沢課長を避ける様に過ごしてしまっていた罪悪感もある。これからどう接していけばよいのか不安な想いを抱えて、宮沢課長を待った。


「すみません、お待たせしました」

「いえ」

「萩原先生にどうしてもお話しておかなければならない事がありまして」

「何でしょうか?」

「萩原先生のお父様、青山蒼太さんについてです」


そうだろうと薄々思ってはいた。宮沢課長の事だ打田先生に指摘された様に僕は心の不安定を出さない様に勤めてきたつもりでいたが隠す事は出来ていなかったようだ。


「宮沢課長、ご心配いただいて本当にありがたいのですが、もう僕は青山とは関係がないので、青山については思い出したくもないんです」

「萩原先生……ですが、どれだけ関係を切ろうともあなたの両親には変わりはないのですよ」


そんな事言われなくたって分かってる、だからこそ触れたくもないし、思い出したくもないんじゃないか、お願いだから僕の事は放っておいて欲しい。


「僕はもう……」

「おーい!宝!」


僕は声のする方を見て驚いた。伯父さんが仕事帰りなのだろう作業服を着て、こちらに向かって手を振って小走りで駆け寄ってくる。


「伯父さん……」

「伯父さん?どうも、萩原先生のお父様ですか」

「ええ、あっ、職場の同僚さんですか、すみません宝の伯父の康介です」

「伯父さん、同僚じゃなくて、こちらは宮沢課長です、僕の上司です」

「あー!そうでしたか、宝がいつもお世話になっています」

「いえ、萩原先生はとても優秀で私などが何も言わなくてもしっかりなさっているので、お世話なんて、それどころか萩原先生のお陰で仕事がスムーズに進められています」


お世辞だろうが、そう言って頂けるとくすぐったく感じる。


「伯父さん、どうしたのですか?」

「あっ、いや、その母さんが今日すき焼きにするって言うから、せっかくだから宝もどうかてな……」

「そうですか」

「あっ!もし、よろしければ課長さんもいかがですか?すき焼き」

「え、お誘いは嬉しいのですが、ご迷惑でないでしょうか?」

「いえいえ!全然!すき焼きは大勢で囲んだ方が美味しいですから!どうぞどうぞ」

「そ…そうですか?では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」

「はい!もちろん!」





なぜ、こうなったのだろうか、伯父さんの運転するワゴンの助手席に宮沢課長が座って、寡黙で物静かな伯父さんが一生懸命に宮沢課長と話をしている。不思議な光景に呆気に取られていた。


伯父さんの家に帰るのは大学卒業以来初めてだ。社会人一年目は盆も年末年始もなく昨年も研修や何やかんやで帰る事はなかった。何よりも顔を合わすのも気まずさがあったので何かない限りは帰らないと決めていた。


車が止まると懐かしい光景が目の前にあった、たった数年離れただけだったが、それ以上の懐かしさを感じた。


「すみませんね、汚いところですが」

「いいえ、とっても素敵なお家ですよ」


四人で住むにはアパートは狭いと、僕が家に来てすぐに伯父さんが買った中古の一軒家。現在では築三十年ともなり少々ガタが来はじめている。


僕がいなければ、こんな無理な大きな買い物する必要のなかった家、今でもただ申し訳なく思っている。


僕が伯父さんの家にやってきてすぐの事だった、伯母さんの親族の集まりに顔を出す機会があった。その時に僕を引き取る事について、親族中で猛反対を受けて、伯父さんと伯母さんが俯いている姿を見てしまった。その時に分かった、僕はこの家で重荷でしかない。


「宝、どうした?」

「すみません、行きます」


玄関から入ると懐かしい雰囲気と微かに木の香りが優しく包む様に香った。


「かあさん!帰ったぞ!」

「はーい」


奥の台所から伯母さんが顔を覗かした。


「あら、何?宝くん?おかえりなさい、どうしたの?」

「え?」

「いや、かあさん、これ、すき焼きの材料」

「え、すき焼き?」

「ほら!」

「あー!そうでしたね!ごめんなさい、私最近物忘れが多くて」


伯父さんは僕を家に来させたくて、すき焼きは口実だったのだろうかと、思った。


「そちらの方は?」

「あ、すみません、こちらは僕の上司の宮沢課長です」

「申し訳ありません、お食事に便乗させていただきまして、ご迷惑じゃなかったでしょうか?」

「あら、課長さん、いえいえ、そんな事ありません、すみません汚いところですが、課長さんがお越しになられるならもう少し綺麗にしたんですけどね、うふふふ」

「いえ、凄く片付けらていて、家に比べたら……お母様がしっかりしていらっしゃるのが分かります」

「まあ!嬉しい!うふふふ」


伯母さんは機嫌がいいようだ、亮介兄さんが仕事で遅くなってて家族で揃って食事をすることがなくなったようで寂しいと言っていたが、久しぶりに鍋を囲む事が嬉しいようだ。


伯母さんの軽快な調理音を聴くのは子供の頃から好きだった、本当に帰って来たのだとしんみり感じた。


会社を辞めてからはこの家の近くの施設に配属が決まった時に伯母さんの料理を無性に食べたくなったが、どうしても前のアパートを引き払う事が出来ず、今では毎朝三十分掛け通勤している。


前の職場の嫌な事を思い出してしまうが、僕は自分の唯一の居場所がなくなってしまいそうな気がして、離れる事ができなかった。


「それにしてもお若いのに課長さんだなんて、凄いですね」

「いえ、私そんなに若くないんですよ、ふふふ」

「そうなんですか!?」

「そう言って頂けると嬉しいです」

「課長さんは御家族は?なんだか無理やりお誘いしてしまって、今更ですが大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です、娘が一人いるのですが、進学を機に一人暮らしをしていますし…」

「そうすると今は旦那さんと二人ですか?」

「いえ、夫は……」

「いや、これは失礼しました……残念でしたね」


宮沢課長の事は職場での事しか知らなかったが、宮沢課長にもやっぱり家族は居て、いろいろあるのだと、当然な事だが分かった。


「いえ、夫とは死別ではなくて、離婚ですよ」

「あっ、ああ、そうでしたか!すみませんなんだか、あはは」


僕も勘違いしていたが寡黙な伯父さんがここまで頑張って話をきらさない様にしている姿なんて、今まで見たことがなかったので、新鮮な気分になった。


「どうして、離婚なさったんです?」

「母さん!いくら何でも失礼だろ!」

「あら、だって気になるじゃない?」

「伯母さん……」

「それに、聞いておいて、黙っておくなって気を使っちゃうじゃない」


伯母さんの言うことも一理あるが、そんな事を明るく聞けるのは僕が知る人の中でも伯母さんくらいだろう、そんな伯母さんだからこそこの家はずっと明るかったのだろう。


「ふふふ、萩原先生の正義感の強さはこういう明るいお家だからこそ身に付いたものなのですね、私もこんなに素敵な家庭を築けていたのなら、離婚なんてしなかったかも知れません、夫とはお互いの価値観の違いで、すれ違いばかりで……でも今はスッキリと優雅な独身ライフを送っています」

「そうよね、古い恋なんて忘れて、新しい恋を探すのもいいわよね、私も恋がしたいわ」

「えっ!?母さん!」「えっ!?伯母さん!」

「あら、揃った、うふふふ、冗談よ、さぁできましたよ」


伯母さんの作るすき焼きは、甘めの味付けで具沢山で食べ応えのある作りだ。子供の頃から変わらず、僕はこの伯母さんの作るすき焼きが大好きだ。


「今日はお父さんがいいお肉を買ってきてくれたので、課長さんたんと食べてくださいね、宝くんもいっぱい食べてね」

「わぁ、美味しそう、本当に私まですみません」

「いえいえ、大した物じゃないですが」

「お父さん、大した物じゃない?」

「そんな…さぁ、食べましょう」

「ふふふ」


グツグツと心地よい音をたてたすき焼きを伯母さんが皆に取り分けてくれた。いつも器いっぱいに肉だけでなくバランスよく盛ってくれる。


「いただきます」


やっぱり美味しい、伯母さんのすき焼きの味だ。


「美味しい、本当に美味しいです」

「ありがとうございます、どんどん食べてくださいね」

「やっぱり、伯母さんのすき焼きは美味しいです……」

「うふふふ、ありがとう」


なんだか、いろんなカオスな状況だけど、なんだかんだ、この家にまた帰って来られてよかったのかもしれない。


「何?今日はすき焼きなのか?あれ?宝帰ってたのか、通りで」

「あ、りょう兄」

「あら、今日は珍しく早いのね」

「あっ、お客さん?」

「お邪魔しています」

「りょう兄、僕の職場の上司で宮沢課長です」

「課長さん!?どうも宝の兄の亮介です」

「どうも、萩原先生とお仕事をさせていただかせている、宮沢です、お邪魔させていただいています」

「いえいえ、こんなボロい家ですが、寛いでいってください」

「ありがとうございます」

「ボロい家とは何よ」

「いやー、こんな綺麗な方が上司だなんて、宝が羨ましいよ」

「うふふふ、ありがとうございます」


何度見返しても異様な光景だ、見慣れた家族団らんの中に宮沢課長がいる。りょう兄は仕事帰りのままの作業服で椅子を持ってきて、いつもの席ではない場所に座った。


「お兄さんは三ツ星運送で働いているんですね」

「あ、はい!安心、安全、迅速に、の三ツ星運送です」

「いつもお世話なっています」

「あーそうか、児童相談所にもよく出入りしてますからね、俺はルートに入ってないんですけど、せっかくなんで俺担当しようかな」

「やめてよ恥ずかしい、宝くんの邪魔になるでしょ」

「うふふふ、その時はよろしくお願いしますね」

「はい!」


こんなにも和気あいあいにこの家が和んでいても、僕はどうしても自分の事とは思えない、自分の心の貧しさに嫌気がさしていた。この家は僕の居場所ではない、そんな声が僕を支配していく。毎日毎日感じていた。


「それにしても、母さんもワンパターンだよな、いくら宝が好きだからって、何かあればすき焼きだもんな」

「そうなんですか?」

「はい、宝は家に来た当初はなかなか馴染めなかったみたいで、いつも俯いて黙ってるような奴だったんですけど、初めてすき焼きを出した時に初めて笑って美味しいって言われたもんだから、それが嬉しかったみたいで、それからは何かある度にすき焼きなんですよ」

「えっ……」

「もう!亮介、そんな古い話やめてよ、恥ずかしいじゃない、あんただってすき焼き好きでしょうに、そんな事より野菜食べなさいよ」

「へへ、あやからせてもらってます」

「素敵な話ですね」


伯母さんの作るすき焼きにはそういう理由があった事を僕は知らずに過ごしてきた。伯母さんの優しさからは容易に想像することが出来る事だ、本当の子でもない僕にも、りょう兄と同じように接してくれる、本当に優しい人だ。


僕は子供の頃、何度も伯母さんの本当の子供として産まれていたらと思っていた。


「ん?オヤジどうしたの?何か考え込んで」

「ああ、いや、今日のすき焼きは美味いなぁって思ってな」

「そうか?いつもと変わらない普通の味だろ」

「失礼ね、いつも通りに美味しいでしょ、確かに何か変よお父さん、どうかした?」


確かに、今日の伯父さんの様子は変だ、急に僕をご飯に誘って、宮沢課長まで招待して、いつもの伯父さんからは考えられない程饒舌に話しをするし、何かあったのだろうか。


「いや……いや、宮沢課長さんは、宝が私らの本当の子でないことはご存知ですか?」

「ええ」

「実はな宝、結衣がお前のお母さんが、癌……なんだそうだ……」


伯父さんが、何が言いたいのか、僕には分からなかった。


「もう、手の施しようがなくてな……余命が幾ばくないって話しでな……良ければ、お母さんに会ってやってくれないか?」


どうして、伯父さんがおかしな事をしていたのかが、直ぐに察した。僕の心の中では驚きの前に怒りがやってきた。


「どうして僕が会わなければならないんですか?」

「いや、それは、確かにお前にとっては二十年会ってない親で母親だと感じられないかもしれない、だけど……もう余命僅かなんだ……会ってやってくれないか?」

「嫌です」

「宝……」

「嫌です、僕にとってその人は親でもなんでもないので、それに捨てておいて今更どういう積もりなんですか?死にそうだから会いたいって虫がいいにも程があります、伯父さんにとっては実の妹だから何とかしてやりたいって気持ちかもしれませんが僕にとっては、もう関わりのない人なので、すみません」


これでいい、僕にとっては関わりたくも思い出したくもない事だ。あの親たちに捨てられて、僕がどれだけ辛かったか、今もどこにいても、居心地の悪さを与え続ける、そんな存在を僕の思考から人生から消したかった。


「違うんだ!これは結衣の頼みではないんだ、俺自身の願いなんだ」

「どうして?本人が会いたいって言ってる訳じゃないなら尚更僕が行く必要なんてないでしょ、それに今も一緒にいるか知りませんが、父がいるでしょ、僕が行かなくてもいいんじゃないですか」

「それは……」


そうだ、母には父がいる、青山蒼太がいる。


僕が行く必要なんてないんだ。


伯父さんは黙ってしまった。


「すみません、お話に割って入る様ですが、萩原先生はご存知ないのですか?」

「え、何がですか?」

「私からこのような事を言うのははばかれるのですが、青山蒼太さんはもうお亡くなりになっているんです」

「え……どういう事ですか?」

「萩原先生にはお話したのですが、私は二十年前、青山宝くん、萩原先生を担当していた児童相談員です、実はお父様とお母様にお会いするのは今日が初めてではないんです」

「あなたは、あの時の相談員の方だったのですね、気付きもせず申し訳ありません……」

「いえ、あの時事を知る者だからこそ、青山蒼太さんについて私の知ることをお話したいと思っているんです」


何を言っているんだ……


父が死んでいた……


そんな事別にどうだっていいと、思うと思っていた、そのはずなのに、僕の心は締めつけられるようだった。


「宮沢課長!……もういいんです、僕は死んだ人の事なんて知りたくありません、あんな父親の事なんて」

「宝……違うんだ、聞いてくれ」

「もういい加減にしてください!」

「宝……」


やめてくれ。


「もう僕は忘れたいんです!こんな変な名前を付けて、僕を犬か何かの動物の様に虐待をしていた親の事なんか!僕の人生から消し去りたいんですよ!」

「宝、違うんだ、聞いてくれ」


お願いだ、やめてくれ。


「何も違いませんよ、どうせ、そんなろくでもない人の事だ、ろくな死に方もしてないんでしょうね!」

「蒼太はそんなヤツじゃない!」


もう……やめてくれよ。


「はっ……すまない……」

「何を言ってるんですか、そんなヤツじゃないって、じゃあどうして僕を虐待したんですか!どうして僕にこんな名前を付けたんですか!どうして僕を……捨てたんですか」


お願いだ……とめてくれ。


「伯父さんだって、迷惑してたじゃないですか」


頼む……誰かとめてくれ。


「周りの人間からも親族からも白い目で見られて、迷惑してたじゃないですか」

「俺は……そんな……」


頼むよ……誰か……


「迷惑してたでしょ!こんなろくでもない人間の子供を引き取って!自分の子供でもない他人を押し付けられて!迷惑してたじゃないか!」


やめてくれ……これ以上、僕の居場所を無くさないでくれ。


「いい加減にしなさい!宝!」


伯母さんに初めて叩かれた。


伯母さんに叩かれた頬の痛みは、痛み以上に僕の心をえぐった。


僕はこんな事をしたかったのではない、僕は僕に残された大切な人たちを傷つけたくはなかった。


「宝!親に対して他人とはなに!あなたがどう思おうと私たちは宝の親なの!そんなに血の繋がりが大事!」

「いや……その……」

「そんな血が大事ならこんな血全部捨ててやる!それでも駄目だって言うんなら!……そんな事聞いてやらないからね!」


むちゃくちゃだ、でもそんな伯母さんのむちゃくちゃさが僕の居場所と無理やりでも繋いでくれている。そんな気がした。


「あなたもあなたよ!父親ならしっかりしなさい!いくら宝に嫌われたくないからといって、言うべき時は言いなさい!」

「あ、ああ……すまん」

「すみません……」


謝罪の言葉が出たけど、本当は伯母さんにありがとうと、僕の暴走をとめてくれた事にお礼がいいたかった。


「アハハハ、お袋、むちゃくちゃだよ」

「亮介、笑い事じゃないわよ」

「宝、家族を引き離そうとしても無駄だぞ、お袋も親父も俺だってお前を見捨ててはやんねぇよ、いくらお前が迷惑だと思っても、俺らは家族だからな、見捨ててやんねぇよ」

「そういう事よ宝くん、すみませんね、課長さんにお見苦しいところを」

「いえ、萩原先生のこういう姿が見れてホッとしました」


冷静になって考えると、上司である宮沢課長の前でこんな醜態を晒すなんて、社会に出た人間として有り得ない事だ。いくら家族の事情とはいえ、冷静になる様に努めるべきであったと、今更ながら後悔した。


「実は私も青山蒼太さんは虐待をする様な人には思えなかったのです、萩原先生、辛いでしょうが、本当にあなたのお父さんはあなたに虐待を加えていたのですか?」

「すみません、昔の事は覚えていないんです……父や母がどんな人でどんな風に暮らしていたのか、覚えていないんです……」



僕は記憶が全くないという訳ではない、子供の頃に伯父さん家族に引き取られて以降は両親の事を忘れようと、考えないようにしていた。そのお陰か僕は両親と暮らしていた時の事を思い出さなくなった。今では、両親の顔もぼんやりとし浮かんでこない。


「ただ……記憶の中にある父と母は、優しく笑っている顔をしているんです……」

「宝……」

「伯父さん、僕に……僕に父と母の事を教えてください」

「ああ、俺の知っている事を全部話す」

「お願いします」


伯父さんはそれから父と母の話を初めから話してくれた。
















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