夢
「ん…ここ、どこ?」
目を覚ました私の前に広がっていたのは、どこかの教会のようだった。記憶がぼんやりとしていて、自分のことも分からない。後ろにある入り口は閉まっていた。
「人、探すか…」
人を見つけて、開けてもらおうと、廊下を歩き出した時、一つの写真が目に止まった。棚の上にのった写真たてに飾られている写真は、小6くらいの私の写真だった。写真の中の私は、友達と話しながら、笑っていた。
「あれ、なんでこんな写真が…?」
もう一度私が写真を見ようとした時、私は眩い光に包まれた。
「え?」
私は気を失った。
目を覚ますと、そこは教室だった。なんだろう、浮遊感がある。そう思うと、私は天井の隅から、教室を見ていた。そして、その先に目をやると、昔の私が立っていた。
「え?」
訳が分からなくなりながらも、様子を伺う。昔の私の元へ、一人の女の子が近づいていく。あぁ、そうだ。この時、親友が転校したんだっけ。確か、あの女の子は、私に「私のグループ入りなよ」なんて、いってきて。でも、私はそのグループのギスギスした感じが嫌いで……。そんなことを思っていると、女の子は私に話しかけ、誰かの悪口を言っていた。昔の私は、その言葉を聞いて、少し作り笑いをして、言葉を濁していた。ふと、自らの目から涙が出ていることに気がついた。
「あれ、なんで…」
それとともに、私は意識を失った。
目を覚ます。変わらずそこは廊下だった。写真は無くなっている。目元に触れると少し濡れていた。
「疲れてるのかな…」
そう思いつつ、再び廊下を歩いていると、再び写真があった。また同じことなのか、と思いつつも好奇心を止められなかった。その写真に手を伸ばすと、再び眩い光に包まれ、意識を失った。
今度も教室だった。でもさっきまでとは違う教室。これは中学生の時の教室だったっけ。私の姿を探すと、机で突っ伏していた。この記憶はもしかして……
「ねー、佐藤さん寝てるよー、みんなうるさくしよーぜ!」
なんて言っている男子がいた。
「なんで寝てんの?」
そう聞かれた過去の私は机に突っ伏し続けていた。
「ねえ、なんで?」
しつこく聞いてくる男子に痺れを切らしたか、か細い声で
「お腹痛い」
とだけ言う。
「頭痛いの?じゃあ、うるさくしよー」
と言われ、何か言おうとした私だが、気力もなく、そのまま突っ伏してしまった。教室の空気は少し凍っていた。確か、この時、生理痛がひどくて、言葉を発する気力もなくて、諦めたんだっけ。すると、そこに、友達がきて、私に話しかけた。
「大丈夫?」
いや、大丈夫じゃないだろ…どう見ても。
「大丈夫だよ」
昔の私は体を起こし、笑ってこたえた。そっか、この時も、無理してたんだ。…あれ、なんで、この時「も」なんだろ…。そう思っていると現実に引き戻された。
目を覚ませば、もちろんそこは廊下だった。顔を上げると前に人影が見えた。
「あ!あの」
そういうと人影は走り出してしまった。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!!」
追いかけたが、もう角に人はいなかった。
「なんだったんだろ…」
すると
「あの…」
「はい!?」
後ろから話しかけられ反射的に返事をする。
「え?」
そこにいたのは幼い私だった。
「え、え、あなたは」
「一つだけ助言があって」
私の言葉なんて無視して、少女は話を進める。
「もしこの先に進むなら、この先の写真を見るつもりなら」
少女はそこで言葉を切った。重い沈黙。
「絶対に自分を信じ続けてください」
そう言って少女は駆け出した。
「え?ちょ、待ってよ、どう言うこと?」
そう言っても少女は止まってくれなかった。こんなところで止まっていてもしょうがない。先に進んでいくと、扉があった。その扉を開けるとその壁には大きな絵がかかっていた。なぜか見たことのあるように感じる、黒を背景にし、泣いている少女の絵。何も考えず、その絵に近づいていくと、再び、光に包まれた。でも、すぐに意識を失わなかった。心の中でこれはやばいのではないか、と思い戻ろうとするが、戻り方も分からずなされるがままになる。その光が弾けた時、目の前に広がったのは、自室で泣いている私の姿だった。ドアの外から喧嘩の声が響く。これは…と思い出す前に光が弾ける。
「どうせ自分が偉いと思ってるんでしょ?」
リビングでそう言われ、俯く自分がいた。違う、違う、そんなこと思ってない、という心の声が聞こえる。母親がその場を離れると、すぐに自室に戻り、再び泣いていた。ああ、これ…すぐに光が弾ける。
教室だった。
「里穂ちゃんは天才だもんね!!」
「そんなことないよ」
友達にそう言われる私がいた。私は努力してるから、できてるだけなのに。心の声が聞こえる。私は辛そうに笑っていた。そんな私を見ているうちに、脳が混乱を起こし始める。あれ、私、なんでこんな無理してんの?なんで、こんな頑張ってんの?光が弾ける。
「生理痛とか言うけどそんなたいしたことないんでしょ。めんどくさいからサボらないでくれる?」
机で突っ伏している私にクラスメートが話しかける。私は、無理に体を起こし、ごめん、とつぶやく。よろよろと歩き箒をとり、掃除をする。それを見て、満足したのかクラスメートが立ち去る。私は何ども箒を支えに痛みに耐える。なんで、なんで、こんな頑張ってるの?なんで、なんで、なんで。混乱を起こす。頭の中に声が流れる。
「死ねば楽になれるよ」
分からない。本当に死んだら楽なの?
「そうだよ、だから死んじゃいなよ」
そうなの、かな。でも、私は残してきたものがたくさんある。
「そんなものないよ。誰も君を待ってない。ほら君の手元にあるだろ?君の自殺のためのものが」
それを手に取り恐る恐る、首に当てようとする。そこに誰かの声が聞こえる。ああ、この声、知ってる。私が一番大事に思ってる人。
「…ほ、り…、里穂、里穂!だめだよ!!帰ってきてよ!!」
だめだ、こんなところじゃ死ねない。手に持ったものを床に叩きつけ、声の方に走り出す。
「戻るな!そんなものは幻聴だ!」
そんな訳ない。私はまだ必要とされてる、死んでる場合じゃない!
ふっと光が途切れる。気を失う。
薄く目を開けると、そこは病院の天井だった。目の前にいたのは、私の一番大切な人。そして一番の親友だった。
「ゆい…」
「何してんのよ!ばか!!誰からも必要とされない、なんて言わないで!!」
「ゆい、ごめん…」
おそらく私の遺書を読んだんだろう。すごく怒っていた。
「ばか…」
起き上がった私に抱きついて、ゆいは泣いた。不意に少女を思い出す。あの子は私に警告をしてくれてたのかな?安心した私は、眠りについた。