98. 目を逸ラす
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「あーあ、また夢を見るぞ。絶対に」
ゆっくりと目を開く。意識を失ってしまった事は分かっていた。また、ホテルのコールオーシャンで見た夢を再び見るのだろうか。
ここは見覚えがある……どうやら、クーバルグの道路に立っていたようだが辺りは人通りも無く車も通っていない。本当のクーバルグよりも不気味に感じる。
「夢の街ってか? んで、お前がまたいると」
幼い頃の自分が目の前の道路脇に座っていた。
「はぁああ。オレはな、頭は殴られる、首は痛くなる、気持ち悪くなるで大変だったんだよ。分かるだろ? お前の夢を見ている余裕なんか無いんだよ」
前回、見た夢の時は幼い頃の自分は泣きながら蹲っていた。だが、何故か今回はずっとこちらを見たまま無言だ。
「おい、聞いてんのか?」
二色の左目はこちらをジッと見続ける。
「何でオレを見る? いい加減にしろよ‼︎」
慌てて右手を押さえた。怒りからか思わず手を出しそうになってしまっていた。幼い頃の自分は全く動じる事なく座ったままだ。収まらない怒りで上から睨みつける。
「もう、この夢で最後にしろ。分かったな?」
──「ふフふ」
幼い女の子のような笑い声が聞こえる。
慌てて辺りを見回すが、幼い頃の自分以外誰もいない。これは自分の夢の筈だが……何故、少女の声が聞こえるのだろうか。この声も聞いたことが無いが。
「おいおい、誰だぁ? クーバルグに女の子の知り合いなんていないぞ!」
──「何デ、ソウやって自分カら目を逸らスの?」
何を言っているのだろうか……?
「いやいやいや、逸らしてねえよ。つい今、目が合ったしな!」
目が合いすぎて殴ろうとしていた程だった。
──「最後ニしろッて言っテタもん」
「悪りぃけど、お前誰だ? 姿ぐらい見せたらどうだ?」
もう一度辺りを見回すが、やはり少女の姿は無い。今回の夢は初めて見る夢だ。
──「ホら、逃げヨうとスる」
「してねえだろ‼︎ それよりも何処に……」
──「ネぇ、一緒ニ遊ぼウよ」
「は……」
道路から白い手が出てきて自分の足を掴んでいる。道路だった道が一面水に変わっていく。
「どわぁ!」
白い手は自分の足を掴んだまま離そうとしない。このままだと水の中に引きずり込まれてしまう。慌てて手を引き離そうするが、凄い力で掴んだまま全く離れようとしない。
「ちょっと待て⁉︎ これ、女の子の力じゃねえだろ⁉︎」
いつの間にか目の前にいた筈の幼い頃の自分はいなくなっていた。
──「待っテるヨ、早く会イたいナ」
「ぐぁっ‼︎」
水の中に引きずり込まれると、どんどん奥へと引っ張られていく。上から陽の光が差し込んでいるのは分かるが、水の中は暗く何も見えない。
まるで、水の中というより海の中にいるようだ。
〈早く……目を覚まさない……と‼︎〉




