96. 伝えたい想い
「瓦礫を……退かせば、もっとトンネル内も……明るくなるかもな」
壊れた壁の瓦礫が出口の下を塞いでおり、上の隙間から光が差し込んでいる。だが、トンネルの出口の壁だけを壊そうとする理由は何なのだろうか。旧五野八トンネルを再び通れるようにしたいのならば、入り口のコンクリートの壁も壊さなくてはならない筈だ。
だが、入り口の方は出口の壁とは違って分厚いコンクリートの壁のように見えていたが。
「……入り口の壁も、壊すのか……?」
正直、今の自分の状態では36番力を使い大きな物を動かせる余裕は無い。シュサヌはどうするつもりなのだろうか。
「出口だけでいいの、入り口は塞いでいてほしい。このトンネルをもう使わないでほしいんだ」
「んっ? ど、どういう事だ?」
再びトンネルを使いたいから壁を壊したのかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。ロキョウに何て説明しながら報告しようかと悩んでいた。
「?」
気の所為だろうか……自分の目の前を多くの人が通っている気配がする。だが、目の前には誰もいない。
「何なんだ? 誰もいないのに……出口から人が出ている?」
眩暈も再び酷くなり、意識が遠ざかりかけていた。
〈やばい。もう、限界だ……〉
シュサヌに自分を連れて入り口に戻ってもらうわけにもいかない。意識を失ったとしても後から自分で戻れば大丈夫だろう。
ライトの光を消した。
「……シュサヌ、先に……入り口に戻ってくれ……。オレは、後から行くから」
「大丈夫かい? ダメそうなら、あたしが入り口まで」
「大丈夫、大丈夫! 少し……休みたいんだ……」
もう、シュサヌの顔もぼやけて見えていた。少し休んだら自分も急いで入り口に戻ろう。
「ザンツィル、これをあんたに」
シュサヌはズボンのポケットから小さな鍵のような物を取り出し手渡してきた。
「鍵?」
錆びた小さな鍵だ……。まるで随分と年月が経ったような錆び方をしている。
「"ニケワ村"という村に行く事があったら、"シュサヌから鍵を貰った"と村人に伝えな」
「……ニケワ村? 貰っていいのか? この鍵……」
「ああ、ザンツィル、本当にありがとう。あんたには感謝しきれないよ」
シュサヌは顔を近付けてくると頬にキスをしてきた。顔が真っ赤になっていく……。
〈うっひょぉぉおおおお‼︎ ラッキーで飛び跳ねたいけど……む、無理そうだ……〉
「あ、ありがとうな、シュサヌ。また後で……」
シュサヌは微笑みながらこちらを見ていた。
ゆっくりと目を瞑り、鍵を握ったまま意識を失ってしまった。
──《シュサヌ様‼︎》
「ああ、あたし達もそろそろ行こうか。戦いは終わったのだから」
ザンツィルを見つめるとゆっくりと立ち上がった。
「どんな事があっても自分を見失うな。ザンツィル」
多くの仲間が手を振りながら待っている。
「待たせたね」
光が差し込む出口へと歩き出した。




