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36  作者: 川之一
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94. 壁を(旧五野八編12)


 「ちょ、ちょっと待て。あの岩をここの壁に向けて転がすってか⁉︎ ここにいるオレ達も危険だぞ」

確かに坂の上にある岩をこちらに向けて転がし、この薄いコンクリートの壁にぶつければ壊せるかもしれない。岩を動かす為にシュサヌは番力を貸してほしいと言ったのだろう。


 だが、転がり始めると同時に自分達もすぐに後方に向かって走り出さなければならない。


 転がってくる岩に当たるようなことがあれば大怪我どころでは済まないだろう。想像しただけでも恐怖である。

「うん、ぺしゃんこだな」

何故かシュサヌは何も言い返してこない……。何が何でもコンクリートの壁を壊してほしいのだろう。


 歩き出そうとしないところを見ると、壁を壊すしかなさそうだ。


 〈シュサヌをおいて行くわけにもいかねぇしなぁ〉

ダラメットとアネアがまだ入り口にいてくれることを願うしかなかった。


 シュサヌに目を向ける。自分の近くにいてはシュサヌも危険な目に遭うかもしれないので下がってもらうしかない。

「壊せばいいんだろ? なるべく遠く後ろの方へ下がってろ」

「いいのかい?」

「壊さないと入り口に戻らないんだろ? 後で壊したかった理由を詳しく教えてくれよ。ロキョウさんに言わないとマズイだろうからな」


 「……ありがとう」

「……」

シュサヌは嬉しそうに小さな笑みを浮かべている。


 だけど……何故かは分からないが、この壁を壊したらシュサヌの笑顔が二度と見れなくなるような気がした。


 「ザンツィル?」

「あ……ああ、任せてくれ! んじゃ、さっさと壊すから」

自分がそう言うと、シュサヌは小さく頷き来た道を走りながら下がって行った。


 「さてと」

左側の亀裂から再び外を覗く。岩が少しでも転がり始めたら、自分もすぐに走り出さなければならない。


 大きく深呼吸をした。


 目を見開き、自分の意識を全て岩に向けて動くように命令する。

〈動け……こっちへ……壁にぶつかれ〉

眉間に皺を寄せながら岩に動くように何度も何度も命令する。


 ──クラァ


 「!」

再び眩暈が襲ってくる。色眼鏡を外し慌てて両目を押さえ首を横に振ると、もう一度岩を見つめた。

「世界財産を持って行かれてしまったら、オレは……オレが……」


 「2000万も払えるかぁああああ‼︎」


 自分の想いが伝わったのか岩がこちらに向かって少し動き始めた。


 「2000万もあったら、ミリちゃんにダイヤの指輪を買いてぇええええ‼︎ エネゼナにプレゼント贈りてぇよぉおおおお‼︎」


 欲の力なのか、岩が大きく傾き始める。あと僅かに動けば転がるだろう。


 「依頼主、詫び金の金額下げろぉおおおお‼︎」


 岩が傾き転がり始めた。


 「よ、よっしゃ……ふっ、さすがオレだな。朝飯前だ」

どうやら、酷い欲望があっても審判のコインは反応しないようだ。


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