91. 奥を目指して(旧五野八編9)
「……」
先程まで自分に何度も話しかけてきていたシュサヌは無言で歩いていた。自分も何か話すべきだろうかと考えながら歩く。
〈好きな食べ物は何ですかって聞くとか? おいおい、子供じゃねぇんだからよ。うーん〉
頭を小さく掻いていた。
ふと、先を歩くシュサヌに視線を向ける。
シュサヌは既に世界財産を手に入れているのではないだろうか。疑いたくはないがトンネルの奥へ向かう距離が分かるのならば、やはり一度はこのトンネルに入っているということになる。だが、シュサヌが手に持っているのは小型なハンディライトだけだ……。
〈世界財産の中には物凄い小さな物もあるのか? 書店に寄って世界財産図鑑でも買っておくべきだったなぁ〉
世界財産のいくつかは名前を覚えているが、全ては把握していなかった。
世界財産として認められている物は全部で"二十個"である。
〈この広大なアミトレアでたったの20……その一つの審判のコイン35枚は他の奴らの手の中。凄い時間がかかりそうだなぁ〜〉
「はぁぁああ」
思わず大きなため息をついてしまった。ため息に気付いたのか、シュサヌは歩いていた足を止めこちらを振り向いた。
「ため息なんかついて、何か悩み事?」
「えっ⁉︎ あっ、いや、シュサヌの好きな食べ物って何なのかなぁーってな!」
「えっ?」
「えっ?」
何かとてつもなく気まずい空気が辺りに漂い始める。急に何の前触れもなく、好きな食べ物を聞く人なんてそうそういないだろう。
「オ、オレはえーと……フライドチキンかな! カリカリに揚げたやつ!」
今すぐこの空気を何とかしなければならない。誰も自分の好きな食べ物など聞いていないが、とりあえず答えておいた。
シュサヌは満面の笑みで答える。
「へー」
……その一言しか返ってこなかった。
トンネルの先をハンディライトで照らしながら無言で進む。無言でいるが、本当は大きなショックを受けていた。
〈えっ、オレって本当にナンパとか下手くそなのか? へーって何だ? へーって〉
「はぁぁぁあああ」
更に大きなため息をついていた。
どこからか風を感じる……。
「?」
俯いていた顔を上げて前を向く。
コンクリートの壁が見えてきた……どうやら、旧五野八トンネルの奥に着いたようだ。
コンクリートの壁の左側にとても小さな亀裂が入っており、そこから少し光が漏れている。
「着いたね。五野八トンネルの奥だよ」
「よっしゃぁあ‼︎ 光があるってことはまだ外は明るいんだな。世界財産は⁉︎」
慌ててハンディライトで奥を照らすが……何も置いていないように見える。




