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36  作者: 川之一
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90. 過去の5番と8番(旧五野八編8)


 慌ててもう一度ズボンのポケットからライトフォンを取り出す。


 ……やはり、画面に時刻は表示されていない。


 途中で直ったかと思っていたが、また壊れてしまったようだ。

「すまねぇ。オレのライトフォンもダメだし、腕時計も車に置いて来ちまった」

「それはライトフォンというのかい? 時間が分かるなんて凄いね」

目を輝かせながらシュサヌはライトフォンを見ている。まるで初めてライトフォンをみたかのような反応だ。

「持ってないのか? ないとかなり不便だろ? ラグファミリーのボスも貸してくれなかったのか?」

何も言わずに小さく微笑むとシュサヌは再び歩き出していた。


 「……」

トンネルに入ってからどのくらい時間が経ったのだろう……とりあえず今は先に進むことだけを考えるしかない。ダラメットがいれば、トンネルの入り口に停めてある車まで戻らせたのだが。

〈ハァ、本当に使えないんだよ。あいつは〉


 ダラメットがアネアに好意を抱いていることは気付いていた。だからこそ無理に引き留めはしなかったが、アネアからダラメットが世界財産を奪い取れるとは思えない。アネアに世界財産を持っていかれては自分が困る。

〈この依頼を失敗してしまったら、詫び金の依頼主は保安雇人(キャプチャー)を呼んじまうよなぁ……〉

そうなってしまったら、自分は刑所に入れられ暫く外に出られなくなってしまう。


 その間にも、世界財産は他の誰かに取られてしまうかもしれない。


 「ちょいと大丈夫かい? 顔色が悪いよ?」

「えっ、あ、ああ。大丈夫だ」

もうダラメットのことを考えるのはやめよう。抑えきれない無駄な怒りが湧いてくるだけだ。


 真っ暗なトンネルの先にハンディライトを向けてシュサヌは目を瞑った。何をしているのか分からず、首を傾げながらシュサヌを見ていた。

「微かに温かい風を感じる……まだ、日は落ちていないね。ザンツィル、36はどんな番力なんだい?」


 トンネルの出口は薄いコンクリートの壁で塞がれているので風は入ってこれない筈だ。シュサヌの表情は焦っているように見える。

「目で見た物を手を使わずに動かせる力だけど」

「……遠くにある物も、見れば動かせるということだね?」

「まぁ、そうだな。急にどうしたんだよ?」

ハンディライトの光をこちらに向け、シュサヌはまた審判のコインをジッと見ていた。


 「あと少しでトンネルの奥に着くよ。ザンツィル、あんたの番力を貸してほしい」


 「え……」

驚いた表情でシュサヌを見る。何故もうすぐトンネルの奥に着くと分かるのだろう。


 シュサヌは一度このトンネルに来ているのだろうか……。


 本当に奥に着くのならば、シュサヌよりも先に自分が世界財産を手に入れなければ。先に取られないよう警戒しながら奥へ進むしかない。

「36番力で何をすればいいんだ?」

シュサヌは小さく微笑むと無言で再び歩き出す。


 ……何か分からない違和感を感じ始めていた。


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