9. 思い出しながら
中央依頼店へ行くには、現在地のセレン海から北へ向かわなければならず、最短でも五時間はかかってしまう。
「んー……」
腕時計を見た。
今から急いで向かえば日が落ちる前には着くだろう。車に乗り込み、エンジンをかけた。
「面倒くさいなぁ〜。くそっ、失敗しなけりゃよかった……。あぁああ! イライラする! 簡単な依頼だったんだぞ!」
車のフロントガラスの近くに置いてあるミュージックプレーヤーの再生ボタンを押す。
プレイリストを自動再生にしていたのだが、何故か悲しいメロディのバラードの曲が流れ始めた。
「あれ? オレ、この曲で止めたっけ?」
─────
──今回の裏依頼を失敗してしまった原因。
とある国の王は多額の税金を納めない者には容赦ない罰を与えていた。そして自分に従わない、反抗する従者達は牢屋の中に一生閉じ込めていると依頼主から聞いていた。
高額な報酬金が貰える今回の依頼内容は"とある国王の全財産"を盗む事。
依頼を中央依頼店に頼んだのは、この国王に相当な恨みがある人物なのだろう。電話番号は中央依頼店から聞いていた為、依頼主と電話で話したことはあるが、自分も直接会ったことはない。
難しいと思っていたのだが、明らかに盗人用に仕掛けたであろう簡単に解ける罠や、番力を使い余裕で誘導できた警備の者達のおかげで、無事に地下の金庫室に入る事ができていた。後は、財産を全て番力で車へ運べば依頼は終わる……筈だった。
……途中、開いていた部屋から見えていた写真立てに気付かなければ。
何故か、気になってしまい部屋に侵入し写真立てを持ち上げた。
──国王らしき人物と妻と子供の三人の笑顔の写真だった。
何者かの気配に気付き前を向くが……誰もいない。
何故だかは分からないが、幼い頃の自分が写真立てを見ている気がしたのだ。
──『……何か分かんねぇけど、全部盗るのはやめよ』
幼い頃の自分と子供が重なって見えていたのかもしれない。
全てを盗めず依頼は失敗。
─────
サングラスに日の光が反射する。
「馬鹿だよなぁ、本当。子供の頃のオレは不幸だった。だけど、あの子供は幸せそうだった。その幸せを壊すのが……」
悲しいバラードが流れている所為か変な事ばかり考えてしまう。
「この曲、削除だ。せっかくの海なんだ、ノリノリの曲で運転しないとつまんないな」
〈プレイリスト19.思い出の欠片を削除しました〉
この曲を何故プレイリストに入れたのか忘れていたが、ふと思い付くことがあった。
「ナンパを失敗した時に入れたか……あぁ、思い出せねぇな。まっ、いーや」
もう一度、ミュージックプレーヤーの再生ボタンを押す。
〈プレイリスト2.グラビティを再生します〉
「よっ! 待ってました!」
リズムに合わせて体を左右に揺らしながら、中央依頼店を目指した。