89. 過去の5番と8番(旧五野八編7)
「……あたしと離れた方が危険かもね。先に進もうか、あんたも奥に用事があるんだろ? 審判のコインはしょうがないとして」
世界財産が旧五野八トンネルの奥にあるか見てきてほしいという依頼をラグファミリーの一員であるシュサヌも頼まれている筈だ。一緒に行くことになりそうだが、自分は世界財産を渡すつもりは絶対にない。
2000万ゴルドを支払うのは容易なことではない。今回の依頼は何が何でも失敗するわけにはいかない。
「まぁな。てか、お前達ラグファミリーもオレと同じ依頼だろ! 女性と言えど絶対に渡さねぇからな」
「ふふ、分かった分かった。ほら、これ」
自分が落とした色眼鏡を手渡してきた。ずっと探していて見つからなかったのにどこで見つけてくれたのだろう。色眼鏡が見つかって安心したのか自分は満面の笑みを浮かべていた。
「おおぉおお‼︎ すまねぇ、ありがとう‼︎」
色眼鏡をかけようとすると、シュサヌは再びこちらをジッと見ていた。目と目が合ったので、どうやら自分の目を見ているようだが。
「気にする事ないと思うよ、本当に。隠してばかりいないで、自分の人生を楽しみな」
「な、何だよ、急に。オレはこの左目が嫌いなんだよ! 左目の所為でオレは……」
生死をさまよいかけた。
過去を分からないから、皆同じような事を言うのだろう。一時は本当に左目を抉りだそうかと考えていたぐらい悩んでいたことも誰も知らない。
〈クーバルグの住民達に碌な奴がいなかったからな。道路脇で誰が倒れていようと助けようともしない〉
「屑な奴ばかりだ」
自分の表情を見て何か気付いたのか、そこからシュサヌは何も話そうとしなかった。自分も再び色眼鏡をかけると、ハンディライトを右手に持ち直してトンネルの先を照らした。
「オレは世界財産を集めて、億万長者になってやるんだ‼︎ ゆったりした人生を送ってやる‼︎ 美女も隣にいてな‼︎ うへへへへ」
「……」
シュサヌから冷たい視線を感じるが、自分の妄想は止まらない。
「そんな欲望があるなら大丈夫だね。さぁ、行こうか」
トンネルの先へシュサヌは歩き出す。妄想を止め、慌てて自分もシュサヌを追い越し先を歩く。
今はトンネルのどの辺りまで来ているのだろう。トンネルの長さが分からないのでひたすら進むしかないのだが、結構走ったり歩いたりしてきた筈なのに、未だにダラメットとアネアの姿が見えてこない。もしかしたら、もうトンネルの奥に着いているのかもしれない。一つ不安なのは、ダラメットがアネアに世界財産を渡していないかどうかである。
〈渡してたら絶対に許さねぇからな、あの野郎〜〉
シュサヌが歩いていた足を止めた。
「ちょいといいかい? 今、何時か分かるかい?」
「えっ? ああ、ライトフォンで……」
ライトフォンの時間表示がまた黒くなっている。先程まで四時四十四分と表示されていた筈だが……。
「んんん? おかしいな。あっ! 腕時計があったじゃねぇか!」
カッコつけながら左手首を上げた。
「……」
高級時計である"デウドーナ"をキズ付けたくないと思い、車の中に置いてきたのをすっかり忘れていた。




