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36  作者: 川之一
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87. 過去の5番と8番(旧五野八編5)


 〈ほ、本気で叩いてきたぞ……〉

あまりもの痛さに思わず何回も左頬を摩っていた。今日一日で頭は怪我をし、首は痛み、頬は叩かれ……本当についていない一日だ。審判のコインは自分の命より大事だと言ったことにシュサヌは怒っているようだ。


 自分は本当にそう思っている。


 「……ごめん、急に叩いて。大丈夫かい?」

シュサヌがこちらに近付いて来たので、慌てて色眼鏡を探すが見当たらない。こうなったら、左目だけ瞑ろうと何度もウィンクをする。ちなみに自分はウィンクがとてつもなく下手くそである。物凄い形相になっているが、何とか左目を瞑れた。

「どうしたの?」

「あっ、いや、左目がちょっと乾燥してて痛いなぁーって……ちょっ、オレの色眼鏡を一緒に探してくれないか」

慌てて背中を向ける。間違いなく色眼鏡は自分の近くに落ちている筈なのに見つからない。

「見せてごらん。このトンネルの中はコンクリートの壁で封鎖された所為で空気が悪いからね」

「いやいやいや、いいって‼︎ それより色眼鏡をだなぁ!」

このままだと左目を見られてしまう。焦りと緊張からか右手で持っているハンディライトの光は小刻みに揺れていた。


 「あれ? ちょっと⁉︎ 審判のコインがなくなっているじゃないか」

「はい⁉︎ 嘘だろ⁉︎」


 ……罠だ。


 驚いて思わず瞑っていた左目を開けてしまった。


 シュサヌは驚いた表情でこちらを見ている。

 「……あんた、その目の色は」


 頭を抱えて地面に両膝を突く。

〈んぁああああ‼︎ オレの馬鹿野郎ぉおお‼︎ なーにやってんだよぉおお‼︎〉

「はい、生まれてからずっとこの色です。はい、気味悪い色ですみません」

何を言われても今の自分なら耐えられる。まさか、頬を叩かれるとは思ってもいなかったので左目の色は絶対に見られないだろうと油断していた。


 本当についていない日だ。


 シュサヌの表情はどうなっているのだろうか。

「……」

俯いていた顔を上げる。


 シュサヌは小さく微笑んでいた。どうやら、怖がってはいなさそうだ。

「全然気味悪くなんかないさ。優しい色だしオッドアイって初めて見るけど、隠す必要なんかないんじゃないかい? あんたの親も悲しむんじゃないか」


 親という言葉は苦手だ。


 自分が何故、命より審判のコインが大事なのか。

「オレには大事な物がない。女神は幼いオレを助けてくれたんだ」

審判のコインと女神が自分の命を救ってくれた。


 「女神が渡してくれた審判のコインが、"一番大事な物"だ」

何故か自然と言葉が出てくる。


 「……危険だね、ザンツィル。あんた、女神に操られてしまうかもしれないよ」


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