82. 旧五野八(ザンツィル編10)
──ミシッミシッ
物凄い力で首を絞められており、声が出せない。力は全く緩むことがなく、このままだと首の骨を折られてしまうのではと焦り始めていた。先程いた黒い布の人物の右手なのだろうか。
「ガッ……グ!」
急いで蒼白い右手を首から引き離そうと両手で掴む。今出せる精一杯の力で思いっきり引っ張るが全く離れる気配がない。
──ギリギリギリ
〈こんなに強く引っ張っているのに、全く動かねぇ‼︎ それに、この手……〉
凄く冷たく感じる。
生きている人の体温ではあり得ない冷たさだ。やはり、過去の想元山で戦い亡くなった者の右手なのだろうか。
力の強さから、相当な怨みや憎しみがあると感じる。
〈だけどな、オレは関係ないだろうがぁああ‼︎ 5でもなく8でもなく36だぞ⁉︎ 過去の36はお前に何かしたか⁉︎ ああっ⁉︎ ほ、本当にヤバい……って……〉
目で必死に訴えるが伝わるわけもなく、どうすればいいのか分からなくなっていた。意識が朦朧としてきている中で蒼白い右手を引き離す方法が思いつかない。
〈そ、そうだ! もしかしたら〉
36番力でこの右手を引き離せないだろうか。蒼白い右手をジッと見つめるが……。
〈ダメか……生きているのか……この手は〉
息が苦しくなってきていた……このまま世界財産を見つけられずに、ミリをデートにも誘えずに死んでしまうのだろうか。中央依頼店でロキョウから依頼を受けた時、正直これ程危険だとは思ってもいなかった。
だが、今なら分かる……誓約書を書かされた意味が。
ダラメットとアネアは無事なのだろうか。
〈あいつらは無事なのか……? あーあ……ついてねえなぁ。最後まで〉
静かに目を閉じようとしていた。
──「しっかりしな!」
「⁉︎」
眩しいライトの光が色の付いた眼鏡を擦り抜け、自分の目を大きく見開かせた。
首を絞めていた蒼白い右手がゆっくりと消えていく。
力が抜けて壁に凭れ掛かったまま座り込んでしまった。
「ゲホッ! ゴホォ! し、死ぬかと思った……」
何故、急に蒼白い右手は消えたのだろう。
「大丈夫かぁ? 何であんた一人でこのトンネルにいるんだい?」
目の前に、銀色の髪をお団子ヘアで束ねている女性が立っていた。
依頼を受けていたラグファミリーの一員なのだろうか。
「中央依頼店の……い、依頼で来たんだ。く、首ぃい……」
「まさか、一人で入るなんてねぇ。ほら、見せてみな」
銀色の髪の女性は自分の顎下に触れると左右に大きく動かした。
「いっ‼︎ ちょっ、ちょい、もうちょい優しく……」
「!」
目の前に銀色の髪の女性の胸元が少し見え
る……。チラッと目をやり慌てて視線を逸らす。
〈ば、馬鹿野郎‼︎ 見ちゃダメだろうがぁ‼︎ 親切に首を見てくれているのに! 見たいけどな! 本当は見たいんだけどなぁあ‼︎〉
目を瞑って心の中で必死に自分と戦う。
「うん。大丈夫、すぐによくなるよ。あれ、顔が赤いね? 熱でもあるのかい?」
「ダ、ダイジョウブ」
棒読みのようになっていた。




