8. 兄貴
「いやいやいやいや、兄貴無茶はやめてほしいっす」
まだ奪い取ろうともしていないのに、無茶と決めつけるのは早いだろう。もし、36枚の全ての審判のコインを自分が手に入れられたら……。
〈女神がオレの元に来るかもしれない〉
ダラメットには言っていないが、一度だけでも女神に会いたいという願望があった。幼い頃に、審判のコインのネックレスを首にかけてくれた女性は女神なのだろうか。もし、彼女ならばどうしても伝えたい事があったからだ。
「はぁ……で、ザン兄貴、依頼は余裕でした? ハハ、兄貴なら楽勝っすよね! 報酬金を使って情報を知っている人の街まで行くっすよー‼︎」
……失敗したと伝えると同時に、詫び金の事も話さなければならない。情報を知っている人物の元へ行く前に行かなければならない場所もあった。
そう、中央依頼店である。
「あー……実はだなぁ……失敗しましたぁぁああ! えへ! んで、詫び金も払わないといけませーん! てへ!」
「はっ? えっ? ザン兄貴がすか?」
「オレ以外、誰がいるんだよ」
「えぇぇえええええええ!!!!」
ダラメットの大声が物凄く耳に響くので慌ててライトフォンを耳から離した。驚くだろうと予想していたので、事前に耳から少しライトフォンを離していて正解だったかもしれない。
「大丈夫、オレには考えがある! だからこその世界財産だろ?」
「はい? ま、まさか、ザン兄貴……」
「世界財産を一個だけ売ればいいだけじゃねーの! 億万長者になれて、詫び金も払えて一石二鳥じゃないかぁ‼︎」
何故かダラメットは黙ってしまった。もしもし? と何回聞き返しても返事が無い。
……暫く無言の時間が続く。
「兄貴、俺は兄貴を信頼してるっすよ。審判のコインだか何だかの力か分からないけど、しっかり番力を使えている兄貴もカッコいいっす。中央依頼店でも助けてくれて本当に感謝しきれないっすよ」
「急に何だよ」
「兄貴の……口からそんな言葉聞きたくなかったっす。兄貴、世界財産は世界で一つしかない貴重な宝物っすよ? 簡単に手に入ると思うすか? よく考えてほしいっす……すいません」
──ピーピー
電話を切られてしまった……。自分はとんでもない事を考えていたのかもしれない。滅多に怒らないダラメットが怒ったのには少し驚いていた。
だが、世界財産を売れないとなると詫び金を支払うのは難しくなりそうだ。今から中央依頼店に行き、詫び金を遅れて支払う者だけが書く支払い誓約書に"世界財産を売って金にする"と書こうと思っていたのだが……。
「参ったなぁ〜、とりあえずミリちゃんに相談してみるかぁ」