76. 旧五野八(ザンツィル編7)
──キィン、キィン
音は更に近付いてきている。
慌ててハンディライトで自分が来た道を照らすが誰もいない。だが、金属のような音は確かに近くから聞こえてくる。何か嫌な予感がするが……。
「何なんだ、この音は。誰もいないよな……誰か来る気配もないし、どうなってるんだ⁉︎」
今、来た道を戻ってはいけないような気がする。
「とりあえず先に進むしか……」
走り出そうと前を向いた瞬間、何者かの気配を後ろから感じた。
──キィン、キィン!
「……」
驚いた表情でゆっくりと振り向く。
頭から全身を黒い布で覆われた人のような者が近付いて来ている。右手には大型の剣鉈のような物を持っていて壁に叩きつけながら歩いて来ていた。
どうやら金属音は剣鉈の音のようだ。だが、先程ハンディライトで照らした時には誰もいなかった筈なのだが。
「やっば……何あれ? えっ? オレの所に来てないか?」
黒い布の人物は一切歩みを止めずにこちらに近付いて来ている。
あれは……人なのだろうか?
何かぶつぶつと言っているので、よく耳を澄まして聞いてみる。
「シシシ、ンパンン、ノコイイイ、ンヲモモツモノニ、ツモノニニニニ、シヲ、ザザザザンアア、ニキキキキ」
不気味な言葉を発しながら近付いて来ていた。血の気が引いていくのが分かる、あれは人ではないような気がしたからだ。
「審判のコインを持つ者に死を、みたいなこと言ってないか? ザン兄貴って……ダラメットじゃ……ないよなぁ」
壁に叩きつけていた剣鉈を構えてこちらに近付き始めた。
「おい、誰だか知らねぇけど今すぐその物騒なもん下ろせよ。36番力でぶっ潰すぞ!」
36番力を使い黒い布の人物から剣鉈を奪えるのではと思ったが、しっかり握られていて番力は効かなさそうだ。
「ママママダナナンスマダァァァア‼︎」
剣鉈を左右に大きく振りながら走って来る。
「ちょっ⁉︎ マ、マジでやめろよ‼︎ 危ねぇだろうがぁああ‼︎」
慌ててトンネルの先へと走る。
追いつかれたら危険だ。
先へ先へとどんどん進んで行く。だが、一つやはり気になる事がある。
〈はぁはぁ、まだトンネルの奥が見えてこない……どうなってやがるんだ⁉︎ 長過ぎだろ‼︎〉
先程も走って体力を使った所為か、息が切れ始めるのが早くなっていた。黒い布の人物は全く息が切れている様子もなく追いかけて来ている。
「チッ! まずい、このままだと……!」
よく見ると地面に大きな石が落ちている。これを投げればもしかしたら怯むかもしれない。
慌てて地面にある大きな石を持ち上げて投げつけると、黒い布の人物の右脚に当たった。




