74. 旧五野八(ザンツィル編6)
ハンディライトを持って急いでトンネルの先へと走る。
ダラメットが先に行ったとしても足音が聞こえなかったのは何故なのだろう。ダラメットの姿が見当たらないとなると先に進んだか、入り口に戻ったかのどちらかの筈だ。
……本気で走っているが、ダラメットの姿は一向に見えてこない。
走り疲れて再び壁に凭れ掛かっていた。
「はぁはぁ……いやいや、おかしいだろ。ダラメットの奴いねぇじゃん」
もし、ダラメットが走っているのならば足音が聞こえる筈だ。トンネル内は相変わらず水が滴り落ちる音しか聞こえてこない。
ふと、浮かび上がる不安。
〈……もしかしたら、オレがおかしいのか? ダラメットは……最初からいなかった?〉
自分がおかしくなっているのでは? と思い始めると不安が一気に押し寄せる。だが、確かにライトフォンでダラメットと通話をしていた筈だ。
「そうだ、着信履歴を見ればいいんじゃねぇか!」
急いでライトフォンの着信履歴の画面を開く。
──ダラメットからの着信履歴は、中央依頼店に向かう前のアスグ平地にいた時で止まっている。
「はっ? ……そんなわけないだろ。まさか本当にライトフォン壊れたのか⁉︎ ん?」
先程までダラメットといた時は黒く表示されていたライトフォンの時間の表示が元に戻っている。
表示されていた時刻は、四時四十四分。
「四時四十四分? 時計機能までおかしくなってるのか?」
不可解な事が立て続けに起こっている……一度入り口に戻った方がいいのだろうか。ダラメットの姿が見えてこないということは、もしかしたら先に入り口に戻ったのかもしれない。
だが……世界財産を諦めきれない。
〈どうする⁉︎ どうするんだ、オレ⁉︎ くそっー‼︎〉
頭を抱えて悩んでいた。
──ピチャン、ピチャン
また水の滴る音が聞こえてくる。先程聞こえていた時よりも更に近くから聞こえるような気がする……。
「何なんだ? 本当にどこから水が落ちてるんだよ」
ハンディライトで天井を照らすが水が滴るような箇所は見当たらない。だとしたら、この音はどこから聞こえてくるのだろう。
「ハッ、怖くなんかないね。水の音で怖がるとかカッコ悪すぎだろ」
入り口前にいた時の自分をすっかり忘れていた。
〈あいつは何があっても大丈夫だとは思うが……もう少し先に進んでみるか〉
再び歩き出そうとした瞬間だった。
──ピチャン、ピチャン、キィン
「んっ?」
一瞬、金属のような音が聞こえたので後ろを振り向く。
──キィン、キィン
ライトで照らすが誰もいない。この音は何なのだろうか?
「何か、音が近付いてきてないか? 誰かいるのか……?」
音は自分に向かって来ているような気がする。




