6. 受付のミリ
──ポポン、ポポン
中央依頼店からの着信はさすがに出ないとまずいだろう。ここで無視してしまったら、二度と裏の依頼を受けられなくなってしまうかもしれない。慌てて通話ボタンを押した。
「あー……もしもしぃ? 何か用ですか?」
冷や汗が止まらない……詫び金の事を言われたら、どうやって話を逸らせようかとばかり考えている。
「中央依頼店受付のミリです。ザンツィルさん、あんなに"見ておけよ"と言っておきながら依頼は失敗したようですね」
本部に行った時にナンパをしたが断られたミリからだった。依頼は失敗しました、なんてとてもカッコ悪くて言えない。
「ミ、ミリちゃ〜ん! やだなぁ、失敗なんてしてないさ! オレは今から向かおうと思っていたんだ」
「そうですか。実は依頼主から詫び金の件について連絡がありました、が……まだ失敗はしていないと?」
冷や汗が更に出始めていた。ミリの口調がゆっくりになっている。このままだと間違いなく"本部まで詫び金を持って来て下さい"と言ってくるだろう。
海の方にライトフォンを向けて、波の音をミリに聞かせる。
「ミリちゃん……オレは今、海を見ながら君の事を想っていた。この依頼が成功したら君にダイヤモンドの指輪を贈りたい。だから、オレを信じ……」
「失敗したのなら詫び金を本部まで持って来て下さい。違反すれば裏の依頼は今後一切受けられなくなります。では、失礼致します」
──ピーピー
「ミリちゃんは氷のようだ……だが、それがいい」
成功したらミリはきっと喜んでくれる。報酬金を使って大きなダイヤモンドの指輪を買ってから、この砂浜にミリを呼んで渡そう。なんてロマンティックなのだろうか。
……頭を抱えて膝を突いた。
現実に戻ったのだ。
「あぁぁあああ‼︎ 何で失敗してしまったんだぁああ‼︎ あんな破格の詫び金どうすりゃいいんだぁああ‼︎」
絶望だった……どうすればいいのだろう。
──ポポン
再びライトフォンが鳴り出した。もう画面に表示されている名前も見たくない。このまま何もかも忘れて逃走してしまうべきだろうか。
──ポポン、ポポン
……またしつこい着信だ。もしかしたら、依頼主かもしれない。せめて文句の一つでも言って電話を切ってやるべきだろう。鋭い目つきでライトフォンの表示画面を見た。
「……」