55. 旧五野八(ザンツィル編3)
「ダ、ダラメットなのか?」
慌ててライトフォンの通話画面を見る。やはり電話をかけてきている相手の名前は表示されていない。トンネルに入ってからライトフォンの調子が悪くなっているのだろうか。
表示されている電波の状態は変わらず0のままだ。
「兄貴、自分でここに……今……今は……」
「お前、何言ってんだ? それより、ライトフォンの中の設定を変えたのか? オレのライトフォンにお前の名前が表示されないんだけど」
──ザッザザッ
電波の状態が悪い所為なのか、僅かにノイズ音が聞こえる。ダラメットの声は聞こえるが一緒にいる筈のアネアの声が全く聞こえてこない。
「変えてない……兄貴、早く奥へ、行こうっ……す」
ダラメットにしては随分と変な喋り方な気がする。もしかしたら、アネアと何かあったのだろうか。振られて落ち込んでいるから、こんな暗い喋り方をしているのだろう。
「まぁ……次があるさ、ダラ。てか、世界財産は渡すなよ‼︎ オレも今から奥へ向かうから‼︎」
早歩きで再び歩き出した。
「今も……兄貴、暗い中に……一緒に行こうっす」
さっきから何を言っているのだろう……何か様子が変だ。一緒に行こうと言っているがアネアと一緒にいないのだろうか。振られたのなら、かわいそうなので聞かないでいるつもりだったのだが……。
「お前、何かあったのか? 一緒に行こうってアネアはどうしたんだよ?」
「……離れたっす……行こうっす」
「行こうって、お前先に行ってていねぇじゃ……」
──カッターン
ふと、トンネルの先を見ようと顔を上げた瞬間、奥の暗闇の中からダラメットがこちらをジッと見ていた。
ライトフォンを持ったまま、真顔でこちらを見ている……。
思わず驚いてライトフォンを落としてしまったので慌てて拾い上げた。すぐ近くにいたのだろうか。
「お前、近くにいたんなら電話してくるなよ! 直接言いに来ればいいだろうがぁ! 本当に時間の無駄なんだよ!」
──ザッザザッザザッ
ライトフォンから聞こえてくるノイズ音が酷くなっているような気がした。ダラメットの方にもノイズ音は聞こえているのだろうか。ダラメットがゆっくりとこちらへ近付いて来る。
「な、何か気味悪いなぁ。大丈夫か?」
「兄貴……行こう……まだ、まだっす……」
「まだなのは分かってんだよ。お前、奥は見れたのか? 世界財産はどうした?」
「あぁ……まだっす、まだなんす……あぁ」
ダラメットは上を向いたまま話していた。目が遠くを見ているような感じがするが本当に大丈夫なのだろうか。色眼鏡を少しずらして見てみると顔色も少し悪いように見える。
〈……本当にどうした?〉




