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36  作者: 川之一
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54. 旧五野八(ザンツィル編2)


 今、後ろを振り向いてはいけない気がする。


 「……」

冷や汗が出始めると同時に、背後から嫌な気配を感じていた。先に行った二人は大丈夫なのだろうか。ロキョウからトンネルの長さを聞いておけばよかったと後悔する。


 短いトンネルであることを願うしかない。


 〈足を止めるな……奥に行けばいいだけだろ。奥へ行けばいいんだよ、奥へ!〉

急足でトンネルの奥へと向かう。一度も振り返らず前だけを見て進んでいた。


 だが、一向にトンネルの奥の壁は見えてこない。


 ──ピタァ、ピタァ


 気の所為か足音のような音が自分の近くで聞こえた気がする。先程より近い距離だ。

〈嘘だろ……後ろに誰か……いるのか⁉︎〉


 ──ペタッ


 「誰だ⁉︎」

思わず後ろを振り向いてしまった。頭がおかしくなっているのだろうか、後ろにはやはり誰もいない。目を瞑って両頬を両手の平で叩いて深呼吸をした。

「水滴の音だ……水滴だ、水滴。裸足の足音なんかじゃないんだよ、オレ‼︎ くそっ、何なんだよ……」

困惑して頭を掻きながらも再び前を向く。

〈行かないと。止まってたら世界財産を取られちまう! 小切手と世界財産は絶対に渡したくねぇ!〉

急いで走り出した。


 ─────


 かなり進んだ筈なのだが、未だにトンネル奥の壁が見えてこない。

「ハァハァ、このトンネル相当長いのか? だいぶ疲れたんですけど……」

壁に凭れ掛かりながら止まっていた。急足を止めずに進んでいた所為で少し疲れてしまっていた。未だに二人の姿が見えてこないのも気になるが……。

〈そんなに早く進んでいるのか、あの二人。おかしいだろ……走って行ったのか?〉

再び歩き出そうとした瞬間だった。


 ──ポポン


 「え」

ズボンの後ろポケットに入れていたライトフォンが鳴り出した。トンネル内に自分のライトフォンの音が響き渡る。慌ててポケットからライトフォンを取り出した。


 ライトフォンの着信表示の画面に名前が表示されていない。画面左上に表示されている電波は"0"になっている。


 ライトフォンの表側画面の左上の小さな四角形に電波の強さを表す数字が表示されている。5が電波が最も強く、0が電波が全く届いていない状態である。0だと電話はかかってこない筈なのだが……。

「な、何で、電話が? ありえないだろ、電波が0なんだぞ……しかも名前が表示されないってどういう事だよ」


 ──ポポン、ポポン


 着信はずっと鳴り続け止まる気配がない。電源を切ってしまおうか迷っていた。

〈けど、いったい誰が? 出てみるしかねぇか〉

通話ボタンを押した。


 「は、はい?」


 「あっ、兄貴……まだ、奥に、来れないんすか……?」


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