52. 旧五野八(ダラメット編2)
フェンスドアから旧五野八トンネルの中へと入る。
ライトで先を照らすが、真っ暗闇だけが続いており奥は全く見えない。トンネルの奥までどのくらいの距離があるのだろうか。
「全長900mの旧五野八トンネル」
小さくアネアが呟く。900m……物凄く長いわけではなさそうだ。
「アネア、このトンネルの噂聞いたことあるんすか?」
「あるも何も有名な場所よね。聞いたことはあるよ、変な事ばかり起きてたってね」
やはりアネアも噂を知っている。知らない人はあまりいない程有名なトンネルなのに、ザンツィルが知らなかったことに自分は驚いていた。
〈車でよくドライブをしているのに分からないんすもんなぁ、ザン兄貴は〉
過去に審判のコインを持っていた5番と8番の人物が殺し合いを行った想元山に、トンネルを掘ろうと考えた人物は誰なのだろう。余程勇気がある人物なのだと思える。
倒れた者達の墓も立てずに……。
「アネア、5番と8番の人って結局どっちが勝ったんすか?」
「……」
「?」
何故かアネアは黙ってしまった。
トンネルの中を歩く足音だけが響く。自分とアネアの足音だが、その足音でさえ不気味に感じてしまう。まだ先は暗く奥の壁は一向に見えてこない。
「相討ちだったらしいよ。一緒に倒れたんだって」
突然黙っていたアネアが話し出したので驚いてしまった。
「そ、そうだったんすか⁉︎」
どちらかは生きていたのだろうと思っていたのだが、違うようだ。
「過去に5番の審判のコインに選ばれた人物は、"シュサヌ"っていう女性の人だったらしいの」
「女性すか、そうだったんすね……」
浮かれた気分でトンネルに入ったのに、重い内容の会話ばかりが続いている。とても告白できるような雰囲気ではない。このまま世界財産を見つけてしまったら告白するチャンスがなくなってしまう。
「このトンネルも、もっと使われたらよかったんすけどね! そ、そうすれば、アネアとコール海の北側に遊びに行けたっす!」
アネアは歩いていた足を止めてこちらに目を向けた。
「ねぇ、ダラメット……あなたは静かに眠りたいのに側をずっと車が通っていたらどう思う?」
「へ? そりゃあ、嫌っすよ」
「でしょ。使われなくなって、よかったのかもしれないね」
……お互い暫く無言で歩いていた。
自分は間違った事を言ってしまったのかもしれない。アネアを怒らせてしまったと思いながら元気なく歩いていた。
「でも……ダラメットが私をコール海に誘ってくれるなんて嬉しいかも。ありがとう、ダラメット」
──カッターン!
持っていたライトを落としてしまった。
〈チャンス……到来っす‼︎〉