40. 野宿は嫌だ
「お、お姉さん、チェックインをお願いしますっす‼︎ このままじゃ……兄貴が‼︎」
あまりもの空腹にピクリとも動けなかった。
よく考えてみれば、王の財産を盗む依頼を終え中央依頼店に行きアイスコーヒーを飲んでから、今に至るまでほぼ一日中何も食べていない状態だ。自分の原動力といえば世界財産か食べ物と言っても過言ではない。
「ダ、ダラ……オレは……超極上サーロインステーキが……食べたい……。あっ、レアで」
「兄貴……倒れちゃダメっす! まだ、まだ世界財産を集めてないじゃないっすか‼︎ だめっすぅうう‼︎」
このままだと意識を失いかねない。
「お姉さん、一泊お願いしますっす‼︎」
女性のホテルスタッフは慌てて受付カウンターに戻りパソコンを操作していた。そういえば、五つ星ホテルであるコールオーシャンは一泊いくらぐらいなのだろうか。
「あっ、よかった! お部屋の空きがまだあります! オーシャンビューも楽しめるお部屋で"一泊10万ゴルド"になりますがよろしいでしょうか?」
自分とダラメットは口を開けたまま呆然としていた。思っていた以上の宿泊料金である。
さすがは大海であるコール海の近くに建つ程のホテルというべきだろうか。他の四つのホテルもこのぐらいか、それ以上の宿泊料金なのだろう。慌てて立ち上がり自分の財布を覗いた。
「あっ、やっべ」
中央依頼店でエネゼナが自分の審判のコインを盗った際に手に当てた金貨を拾い忘れていたことを思い出す。
金貨一枚で5万ゴルドと同等の価値がある。
財布の中には2万の紙幣と金貨ニ枚しかないので、合わせても20万にならない。ポケットの中の金貨を飛ばしたことを後悔していた。
こうなったら……ダラメットには悪いが、野宿をしてもらうしかなさそうだ。
「ダ、ダラ……オレはお前の兄貴分だ……。分かるだろ……一人しか泊まれない。だったら、誰が泊まるべき……か」
自分のチェックインをしてもらおうと、ぷるぷると震える手で財布をダラメットに手渡そうとした。
「……分かってるっす、ザン兄貴。兄貴の分までしっかりオーシャンビューを見てくるっすよ」
「ん? なんか違くね?」
どうやらダラメット自身が泊まる気でいるようだ。険しい表情でダラメットの胸倉を掴んだ。
「ふざけんなぁあ! てめぇが野宿すんだよ‼︎ 誰を外に出そうとしてんだ⁉︎ ああ⁉︎」
「嫌ぁあっす! それだけは嫌っすぅうう‼︎ オーシャンビュー見たいんすぅう‼︎」
見かねた女性のホテルスタッフがこちらに駆け寄って来た。左手に一枚の小さな紙を持っている。
「お客様、あの……」
紙には"宿泊料金を特別に5万ゴルドにします"と書かれていた。
「えっ? マ、マジで?」
警備カメラがあるので声に出して言えないようだ。だが、女性のホテルスタッフは微笑みながら頷いていた。
「助けていただいた御礼です。これでよろしければ!」
「いやったぁあああ‼︎」
先程の喧嘩は何だったのか分からないぐらい二人で両手を挙げて喜んだ。




