4. 最重要な
スールイティ団から任せられていた任務。
──中央依頼店の受付長だけが持つ認証印を盗め。
受付長とは、中央依頼店での管理職の一つで、預かった依頼や買い取った依頼の内容等を精査しているようだ。
「……」
海を見つめる。
今は交代したが、当時の受付長は女性だった。実は認証印を盗めなかったことを五年経った今も誰にも言わずに一人で悔やんでいる。他のスールイティ団員達がいたにも拘らず失敗してしまったからだ。
失敗したのは自分ではなく、五人の内の一人。
〈受付長の認証印を手に入れたら、偽の依頼を作ることができる。超高額の報酬金で成功出来ないような依頼を作り、わざと失敗させれば、オレ達は多額の詫び金を手に入れられる〉
だが、中央依頼店の建物の警備はとてつもなく固かった。36番力で物音を立てながら進み、警備員達には無事に見つからずにすんでいたのだが、仲間の一人が床の隙間に埋め込まれていた警備作動装置を踏んでしまったのだ。
部屋中が真っ赤なライトに照らされ始めると、危険を知らせる警告音が鳴る。そして一番厄介なのは……その後だった。
天井の一箇所が開き降りてくる、大型の機械の両腕。
掌に幾つもの刃がある"キラーアーム"が追いかけてくる。
噂には聞いていたが、初めて見たので驚いていた。キラーアームに捕まった者がその後どうなったのかは知らない。だが、一つだけ分かる事は、捕まった者の姿を二度と見ることはない。
〈……あんなのに追いかけられたら、どうしようもねぇよ。盗賊を完全に抹殺する気満々の機械があるんだからなぁ。無理だろ〉
さすがに床にまで装置が埋め込まれていたとは思っていなかっただけに、その場で全員がパニックになっていた。中央依頼店も何が何でも盗ませるわけにはいかなかったのだろう。
認証印は物凄く細かい様々な模様が密集してできている印鑑であり、決して複製することはできない。盗まれるようなことがあれば、本部の中央依頼店は閉めなければならなくなる程の最重要な物だ。
キラーアームが降りてきたと同時に、36番力が使えるかどうか試していた。生き物ではないので大丈夫な筈だと思っていた。自分だけが慌てなかったのも、36番力でキラーアームを落ちつかせられるだろうと思っていたからだ。
だが……自分が命令したように動かない。
普段はパニックにならない自分も慌て始めていた。
〈あれは逃げるしかないと思ったなぁ。情けねぇけど……あの機械は何だったんだ〉
未だに番力が効かなかった理由が分からない。
それから慌てて逃げ始める。自分ともう一人、残りの三人は分かれ廊下で離れてしまう。既に侵入者捕獲用のシャッターが閉まり始めており、自分は間に合わないと予測していた。
──『そっちに行くなぁああ‼︎』
走って行く三人に声は届いたのだろうか。