38. 鷹のガラス細工
「誰がお前の後ろで待ってるか分かってんの?」
首を傾げながら話していた。お腹が空いている所為か物凄くイライラしてくる。ダラメットはあたふたとしながら、止めるべきか止めないべきか迷っているようだった。
〈あの客ザン兄貴を怒らせちゃったから大変な目に遭うっすよ。……お、俺、知らないっす〉
欠けていると言っていたガラス細工を近くでよく見てみる。どこを見てもやはり欠けているようには見えない……どういう事なのだろう。
怒っていた客の男性は起き上がると胸倉を掴んできた。
「どこのどなたさんですか? ふざけんなよ、怪我でもしたらどうすんだ? ああん⁉︎」
「……」
眼鏡越しから鋭い目つきで睨みつけていた。ダラメットの顔色が再び真っ青になっていく。
〈ひえぇえええ‼︎ やべぇっす! と、止めなきゃマズイっす!〉
女性のホテルスタッフも慌てて受付から出てきた。
「お、お客様、喧嘩はやめてください! 今すぐ主任を呼びますので……!」
湧き出る怒りを抑え込みながら小さく笑う。
「いや、呼ばなくていいでーす! なぁ、どこが欠けているか教えてくれよ。それってそんなに高いのか?」
客の男性は胸倉を掴んだまま鷹のガラス細工の前に自分を連れて行く。
そして、広げている翼の先の部分を指差した。
……よーく見てみるが、全く分からない。
先もしっかり丸く帯びており、欠けているような感じはしていなかった。
「よく見ろよ。薄いキズが付いてるだろ! 100万ゴルドもする超貴重な物なんだよ!」
裏依頼の詫び金の額と比べたら全く貴重な物とは思えない。キズだったら男性自身がつけた可能性もあるのでは……。
どうやら、この男性は怒鳴りつけるだけの迷惑な客のようだ。
「うるさいなぁ」
鷹のガラス細工に視線を向ける。
ダラメットは気付いてしまったのか手をクロスさせ"バツマーク"をしていた。だが、自分は早く泊まりたいので無視をする。今なら鷹のガラス細工の近くには誰もいない。
深い笑みを浮かべた。
──ガッシャーン
「なっ……⁉︎」
鷹のガラス細工は受付カウンターから落ちて粉々に砕けた。客の男性と女性のホテルスタッフは口を開いたまま固まっている。ダラメットは自身の額に手を当てていた。
「ザン兄貴、本気でやるなんて。だから怒らせちゃダメっす」
「うわぁああああ‼︎ 割れてしまったぁああ‼︎」
胸倉をつかんでいた右手を離すと客の男性は慌てて鷹のガラス細工の近くに駆け寄った。
「お、お客様、触らない方が!」
鷹のガラス細工の近くには誰もいなかったうえに誰も触れていない。
勝手に落ちて壊れたのだ。
「あらら、残念だな。もう怒鳴れねぇじゃん。お姉さん、早く泊まりたいからチェックインしたいです!」
ズボンの後ろポケットから財布を取り出していた。




