32. 盗めなかった物
小さな箱の中から取り出したのは、やはり"認証印"のようだ。
鋭い目つきで認証印を見ていた。自分が五年前に盗むことが出来なかった物。今も見ただけで悔しさがにじむ。
だが、心の中で認証印のことを考えてはいけない。
ロキョウは心の中が読めてしまう……過去に認証印を盗もうとしていたことがバレてはまずいだろう。今考えると受付長が変わっていて良かったと思う。
五年前、スールイティ団員と共に侵入した時に36番力で警備カメラの向きは変えていた。そのおかげで中央依頼店に自分達が侵入した時の記録映像は残っていない。だが、キラーアームを操作していた15番の人物は自分達が侵入した時の警備カメラの映像を観ていたのだろうか。
もし、観ていたのならば……。
〈!〉
……15番のことも考えてはいけない。自分は会ったことがないのだから、分かっていたら不自然である。静かに深呼吸をして誓約書を見つめた。
「兄貴……あれって」
「おいおいおいうぉい‼︎ ダラメット‼︎ アイスコーヒー氷多めおかわりぃいい‼︎ 今すぐ行かねぇと殴るぞ‼︎」
「は、はいぃいっすう‼︎」
ダラメットは机上に置いてあった空の紙コップを持つと、慌ててドリンクサーバーが置いてある方へと走って行った。
……とてつもなく危なかった。
間違いなくダラメットは心の中で認証印のことを考えていた筈だ。読まれていたらバレてしまうところだった。
「アハハ。そんなに喉が渇いているのかい? 殴ることはないだろうに」
「そうなんですよぉ! 喉が渇いて渇いてしょうがないんですよぉ! あははハハハ!」
ロキョウは自分の誓約書とダラメットの誓約書に認証印を押すと、想元山へ行く地図を手渡してきた。
認証印を押されると、今回の依頼を破棄することはできなくなる。
「それじゃ、よろしく頼むよザンツィル。私のライトフォンの電話番号を教えておくので、何かあれば連絡してください」
チラッとミリの方に視線を向ける。中央依頼店の受付長が電話番号を教えてくれたのだから、ミリ自身のも教えてくれてもいい気がするが。ちなみに自分は受付の電話番号しか分からない。
「あんれぇ、ミリちゃんも今回の依頼は関係してるんだよなぁー? 電話番号教えてくれてもいいんじゃないかなぁー?」
ミリは小さく微笑んだ。
「受付長に電話をかけてくれれば大丈夫です。では、ロビーが混んできてますので相談受付に戻りますね。ザンツィルさん、また」
「えっ? あの、あっ、ちょっ!」
そう言うと、ミリは席から立ち上がりロビーへ行ってしまった。
涙が溢れそうだが必死に堪える。正直、ロキョウの電話番号よりもミリの電話番号が知りたかった。
「それじゃあ、先に行っているスールイティ団とラグファミリーの皆にもよろしく!」
「はーい……ついてねぇ……」




